第八話 禁書の管理者カルマの書記官
浮遊装置暴発事件から一夜。
街は焦げた匂いと混乱が残り、人々は噂を囁いていた。
「アイゼンハワード一行、国家転覆を企てた魔導テロ犯」
そんな“汚名”が、街の大通りの掲示板にデカデカと貼られていた。
「……ほらな。結局いつもこうだ。年寄りはすぐ悪者にされる」
アイゼンハワードは杖をつき、ぼやく。
リュカが剥がそうとすると、死神シグルがニョキッと横から顔を出す。
「イヒヒヒ! 良いね指名手配!
指名手配の顔写真はもう少しイケメンにしてほしいねイヒヒヒ!」
「いや、そういう問題じゃない!」
そんな騒ぎの中、ルアーナが静かに呟いた。
「……“カルマ”に行くしかないね」
耳慣れない名前だった。
その名は、図書館でも学術院でもタブー。
国家すら近づけない、古代魔導文明の遺物を守る組織。
入り口は、街外れの聖遺物倉庫の地下に隠されていた。
重い鉄扉が開くと、無数の巻物や石板が霧のような魔力を放っていた。
薄暗い灯火と、紙の焦げる匂い。
禁書独特の“記憶のざわめき”が耳を刺した。
その中央に、黒衣の男が佇んでいた。
書記官カルマス
年齢不詳の青年。
銀縁の眼鏡、淡々とした目。
言葉は刃物のように冷たい。
「……君たちが、皇女リディアの足跡を追っている噂の人物か」
アイゼンハワードが一歩進む。
「彼女はどこに行った?
戦争を終わらせるため、“真実の書”を探していたと聞いたが」
カルマスは巻物を眺めたまま、静かに答えた。
「皇女は犠牲者ではない」
冷たく、しかし断言する声。
「彼女こそ、
戦争の根を断ち切ろうとした者だ。
東西が隠してきた“神話の改竄”の証拠を求めていた」
リュカが息を呑む。
「……じゃあ、皇女は逃げたんじゃなくて――」
「そう。
誰かを助けるために、そして真実を暴くために“消えた”。
だが今は――行方不明だ」
カルマスは机に一冊の古文書を置いた。
表紙には、古代語でこう刻まれていた。
《第五書:世界境界の裂創》
「皇女が最後に閲覧した禁書だ」
ルアーナが震える声で尋ねる。
「……これ、持ち帰っていい?」
カルマスは淡々と言った。
「だめだ。禁書の持ち出しは死刑だ」
死神シグルが嬉しそうに跳ねる。
「死刑イヒヒヒ! いい響き!」
「喜ぶな!」
ルマスは眼鏡を押し上げ、ため息をつく。
「……それと、忠告しておく」
壁の魔導スクリーンに、街中の“指名手配令”が映る。
そこには、
アイゼンハワード、リュカ、ルアーナ
…そしてなぜかシグルの似顔絵まで。
(シグルだけ“落書きレベルの雑な似顔絵”)
「君たちは今、
東西合同の賞金首 になっている」
アイゼンハワードは額を押さえる。
「……はいはい、また厄介ごとか」
カルマスは冷たく告げた。
「皇女を探すなら、急いだほうがいい。
“彼女を口封じしようとする勢力”が動き出している」
その時、禁書庫の扉が轟音を立てて揺れた。
カルマスが小さく舌打ちする。
「……もう来たか。
“回収局” の連中だ。禁書を盗みに来た下劣な犬どもだよ」
アイゼンハワードが笑みを浮かべる。
「よし。久しぶりに暴れてやるか」
死神シグルが腕をぶんぶん振る。
「よぉし!まずは誰を殺る?イヒヒヒ!」
「誰も殺すな!!」
禁書庫の扉が破られ、黒装束の“回収隊”がなだれ込んでくる
物語は、次なる戦いへ。




