第三話 消えた皇女リディア 魂の痕跡を追え
情報局本部“鋼鉄の尋問室”
3人と死神1体は、裏市場からの帰り道で
情報局の黒服に囲まれ、強制連行されてしまった。
情報局長 アンドレイ・グランツ。
銀髪、鷹の目、そして国家そのもののような冷徹な男。
尋問室で、彼は椅子を回転させながら言う。
アンドレイ
「……裏市場タルゴと接触した理由を説明してもらおうか。」
アイゼン
「散歩だ。」
アンドレイ
「ではなぜ“闇兵器の部品”を持ち帰っている?」
ルアーナ
「アイゼンが勝手に!」
アイゼン
「勝手ではない。“必要だった”だけだ。」
死神
「イヒヒヒ、こいつは歩く厄介ごとだからな。」
アンドレイが眉を上げる。
「死神まで同行とは……この旅はどれほど物騒なのだ?」
死神は椅子の上でくるりと一回転して笑った。
死神
「物騒なのは“あんたの組織”だろイヒヒヒ?」
アンドレイ
「……貴様、本当に死神なのか?」
シグル
「本物だ。怒らせると死ぬぞイヒヒヒ。」
リュカ
「脅さないでください……!」
アンドレイは机の上に一枚の写真を置いた。
そこには、
金髪で、氷のような瞳を持つ美しい少女――
リディア・ヴァルド皇女
アンドレイ
「東側の象徴…だが、戦争開始と同時に“消息を絶った”。
記録上は事故死。
だがお前たちはそう思っていないようだな?」
アイゼンは写真を眺め、
ゆっくりと、まるで本をめくるように答えた。
アイゼン
「事故にしては痕跡が整いすぎている。誘拐にしては要求が出ない。
亡命にしては証拠がゼロ。」
ルアーナ
「つまり……事故じゃないってこと?」
アイゼン
「“計画された失踪”だ。」
アンドレイが鋭い目でリュカを見る。
「……少年。お前もそう思うのか?」
リュカは少し緊張しつつも、
机の上の資料を数秒眺め、静かに言った。
リュカ
「はい。皇女は“消されるべき存在”だったんです。
……国家の、どちらかにとって。」
アンドレイ
「理由は?」
リュカ
「東西どちらかが戦争を仕組むのなら、
“平和の象徴”である皇女は邪魔になる。」
アンドレイは思わず息を呑んだ。
「……少年、ただ者ではないな。」
アイゼン
「元囚人だ。地頭がいい。」
ルアーナ
「もっと褒めてあげてよ!」
死神
「イヒヒ、リュカは優しいが鋭いんだよ。そこが“死ににくい魂”ってやつだ。」
リュカ
「その表現やめてください!」
ふいに、部屋の空気が変わる。
死神シグルは
まるで風の匂いが変わったかのように鼻をすん、と鳴らした。
アンドレイ
「……なにをしている?」
死神
「“魂の痕跡”を嗅いでるイヒヒヒ。」
ルアーナ
「嗅ぐものなの!?」
シグルは写真に手をかざす。
死神
「皇女リディア……
死んでないぞ。」
アンドレイ
「!」
ルアーナ
「えっ!?」
リュカ
「本当に!?」
死神(真剣な声で)
「ただの行方不明じゃない。
“未完了の死”が皇女を包んでいる……
誰かが死を偽装し、
誰かが皇女を隠した。」
アンドレイがつぶやく。
「君は……適当なことを言っているのではないのか?」
死神
「イヒヒ、嘘なら今すぐこの部屋で誰か死ぬぞ?」
アンドレイ
「全員、死神を刺激するな。頼む。」
アンドレイは目を閉じ、深く息を吐いた。
アンドレイ
「……わかった。
お前たちを“捜査協力者”として扱う。
皇女リディアの痕跡を追ってくれ。」
アイゼン
「協力じゃない。“勝手にやる”だけだ。」
アンドレイ
「……やはりお前は厄介だ。」
死神
「そしてオレはその100倍厄介だイヒヒヒ!」
ルアーナ
「威張らないで!」
リュカ
「……でも、これで本格的に動けるんですね。」
アイゼンは立ち上がる。
「行くぞ。
皇女の“死ななかった理由”を探しに。」
死神は写真を振りながら笑う。
死神
「リディア皇女……待ってろよイヒヒヒ。
オレに“死んでない”って言わせたんだ……
ただの事件じゃ終わらないぞ。イヒヒヒヒ楽しみだ」
そして4人は、
巨大な国家犯罪の核心へ足を踏み入れた。
皇女リディア行方不明事件。
その裏に潜むものは、
東西戦争すら“前座”に過ぎない、
恐ろしい真実だった。




