第二話 裏市場の巨悪タルゴ―闇兵器の秘密
裏市場
ルーメン共和国でもっとも危険な区域
盗品、偽札、密輸魔導具、生体兵器まで何でも揃う〈裏市場タルゴ・ライン〉。
人混みの中、冒険者でもない、騎士でもない、
妙に“影のある四人組”が歩いている。
アイゼン
「……変わらんな。裏社会はいつの時代も“金の臭い”が一番濃い。」
死神(肩に乗りながら)
「そして“死の臭い”もイヒヒヒ!」
ルアーナ
「その笑い声やめて!市場の人たちが避けてる!」
リュカ
「でも逆に歩きやすいですよ……」
そして、そこにいた。
黒いローブ、骨のように痩せた指。
光のほとんど差し込まない地下倉庫に座る老人。
裏市場の支配者。
タルゴは暗闇から浮かぶように立ち上がり、
四人を見るなり、にい……っと口角を上げた。
タルゴ
「よく来た……。
とくにお前アイゼンハワード。
新しい“金の匂い”がするわい。」
アイゼン
「金じゃなくて、ただの死人の匂いだ。」
タルゴは喉の奥で笑う。
「そういう奴ほど……一番、儲かる。」
死神はタルゴを見た瞬間、珍しく後ずさった。
死神
「お、おいアイゼン……こいつ……“魂の色”が見えない……イヒヒヒ……。
やばい。やばすぎるぞ。」
ルアーナ
「死神がビビってる!? そんなことある!?」
リュカ
「逆に安心できません……」
タルゴの机の上には、金属片が積まれていた。
見慣れない形状、しかしアイゼンは目ざとく気づく。
アイゼン
「……これは、魔導浮遊装置の“核”か?」
ルアーナ
「え!? こんな裏市場で!?」
タルゴは歪んだ笑顔で指を鳴らす。
倉庫の奥から、違法の浮遊兵器が半壊した状態で浮かびあがった。
タルゴ
「東も西も、戦いを続けたいんじゃよ。
戦争が終わったら困るのは、誰だと思う?」
死神
「……“兵器を売る連中”だろイヒヒヒ。」
タルゴ
「正解じゃ。」
しかし
ルアーナは浮遊装置のコアを取り上げた瞬間、眉をひそめた。
ルアーナ
「これ……欠陥があります。
熱暴走した瞬間、爆発する構造に――?」
アイゼン
「わざとだな。」
タルゴ
「そうとも。
東も西も……“知らないふり”をしておる。」
リュカ
「そんな……!戦争で使われたら、大惨事どころじゃ……」
タルゴは笑わない。
沈んだ声で告げる。
タルゴ
「すでに何百と死んどるわい。
公式記録には、一人も載らんがの。」
死神
「それで魂の声が多いのか……イヒ……ヒ……」
タルゴは四人の前に身を乗り出す。
タルゴ
「なぁ、アイゼンハワード。
お前さんら……“国家の嘘”を暴きに来たんじゃろう?」
アイゼン
「暴くつもりはない。
ただ……真実が向こうから寄ってくるだけだ。」
タルゴは喉の奥で笑った。
タルゴ
「なら、ひとつ取引をせんか。
ワシを助けろ。
この闇兵器を作った《本当の黒幕》を教えてやる。」
ルアーナ
「黒幕!?」
リュカ
「共和国じゃないんですか……?」
タルゴ
「いや……違う。
もっと“上”じゃよ。」
死神は小さくつぶやいた。
「……東西どちらの魂の影でもない……
これは……国家じゃなくて“怪物”の仕業だイヒ……ヒ……」
アイゼン
「面倒ごと確定か。」
四人は顔を見合わせる。
またしても、国家レベルの巨大な陰謀の匂いがしてきた。
タルゴの瞳は光っている。
まるで“これからたくさんの死人が増える”と知っているかのように。




