第十二話 最後の冒険の旅たちへ
天空に咆哮を轟かせたバハムートが、灼熱の閃光に焼かれ、断末魔の叫びと共に地へと崩れ落ちる。
その衝撃と共に、地面が震え、風が渦巻く。
――そして、静寂。
「……終わった……のか?」
アルベルトが剣を地に突き立て、肩で息をする。
巨大なバハムートの亡骸がゆっくりと崩れ落ち、その影からひとつの重厚な宝箱が姿を現す。
「ん? あれは……!」
「宝箱だ!」と、マリアが駆け寄る。
リスクが警戒しながらも手を伸ばし、ゆっくりと蓋を開けた――。
ギギィィ……!
中には、光り輝く兜が納められていた。漆黒に金の紋様が走る、見る者を威圧するような威厳を持った装備。
「こ、これは……!」
アルベルトが目を見張る。
《天竜の兜》
――火と風属性の攻撃を完全遮断する、天空竜の鱗で編まれた伝説の防具。
「もしかして……リスク、それ……またまた装備できるのか?」
リスクが無言で兜を手に取り、装備してみる。
《天竜の兜を装備しました》
《リスクは、伝説の防具を3つ以上装備しました》
《称号「裏勇者」を獲得しました!》
「……称号……だと?」
「えっ、リスク……ついに裏勇者になっちゃったの!?」
リスクは軽く肩をすくめ、静かに微笑んだ。
「まあ、村人よりは聞こえがいいかな。俺も本気出すか……」
アルベルトが呆れながらも笑う。
「お前、どこまで進化する気なんだよ……!」
バハムートを倒したことにより
一気にレベルが3も上がった。
勇者アルベルトの体にじんわりとした温もりが広がる。
《勇者アルベルトのレベルが上がった!》
《体力が300上がった!》
《力が110上がった!》
《防御が125上がった!》
《素早さが85上がった!》
《賢さが20上がった!》
《魔力が22上がった!》
《運が50上がった!》
《新しい魔法「モノモライ」を覚えた!》
「……ま、また意味不明な名前の魔法を覚えたな……!」
《シスターマリアのレベルが上がった!》
《体力が75上がった!》
《魔力が90上がった!》
《素早さが44上がった!》
《賢さが130上がった!》
「感謝します、神よ……でも、モノモライってなんですか!?」
《リスクのレベルが上がった!》
《運が90上がった!》
《賢さが55上がった!》
《新しいスキル「閉店セール」を覚えた!》
「なぜだ……なぜ俺は戦うたびに商店街感が増していくんだ……」
最後に、黒衣の魔術師・マーリンの瞳が一瞬煌めいた。
《黒魔術師マーリンのレベルが上がった!》
《体力が1000上がった!》
《魔力が1600上がった!》
《賢さが80上がった!》
《運が40上がった!》
《新しい呪文「ブラックロザリア」を覚えた!》
「……“漆黒の薔薇”がようやく咲いたか。地獄の門に捧げるにふさわしい。」
そして、バハムートの亡骸の中――温もりを宿す一つの卵が残されていた。
「これは……卵!?」
竜騎士ガイアが歩み寄る。
「それはバハムートの落とし子……しかし、まだ穢れていない。希望そのものだ」
ガイアはそっとその卵を抱き上げる。
「この子は、俺が育てよう。天空の王国の新たな守り神として争いのない未来を信じて」
「……あんたに託すよ、ガイア」
「ありがとう、勇者たち。必ず、この竜を“守りの象徴”に育ててみせる」
旅の仲間たちがそれぞれ静かに頷き合う。
バハムート討伐の戦いから数日。
空に浮かぶ王国・レティシアでは、平和の訪れを告げる鐘が静かに鳴り響いていた。
広場に吹く風は澄み、雲の海の向こうに希望の光が差し込んでいる。
その中心に、リスクたちと、竜騎士ガイアの姿があった。
ガイアは鎧を脱ぎ、軽装に身を包み、バハムートが遺した《卵》を抱えていた。
それは、天と魔をつなぐ最後の“鍵”とも呼べる存在だった。
「……本当に、ここで別れるのか?」
「ああ。俺はこの卵の子をバハムートの落とし子を育てる。
竜は恐怖の象徴だったが……これからは、希望の象徴にしてみせる」
「ガイアさん……でも、一人で大丈夫ですか?」
ガイア(微笑み)
「一人じゃないさ。レティシアの人々が支えてくれる。それに、こいつも……俺の声に応えてくれるはずだ」
バハムートの卵が、静かに光を放つ。
「……やがて、この世界が再び闇に覆われるとき。その時こそ、新たな“守り手”が必要となるでしょう」
シスターマリアが祈った。
「その役目……任せたぞ、竜騎士」
「ああ、必ず。だから、お前たちも、絶対に生きて帰れ」
ガイアは卵を胸に抱き、振り返ることなく階段を登っていく。
その背に、もうかつての迷いや怒りはなかった。
風が吹いた。
雲をかきわけ、青空が開ける。
ガイアの背に、再び竜騎士の誇りが宿った。
俺たちは竜騎士ガイアを天空王国レティシアで別れた。
そして、いよいよ最後の戦いの地、「魔界」へ。
「いよいよ……最後の旅立ちか」
「うん、でも絶対に生きて帰ってくるよ、全員でな」
「約束だよ、アルベルト!」
「……この世の闇を焼き尽くし、光を取り戻すために」
「さあ、行こう。俺たちの最後の冒険へ!」
夜明けの光を背に、仲間たちは歩き出す。
魔界の門が口を開くその向こうへ
俺らの旅は、いま、新たな最終章へと突入する。
【第九部・完】