第13話 卒業旅行
俺たちが毒牙の美魔女セリーネと勇者アルベルトの元へと急いで向かうと、そこには異様な光景が広がっていた。大広間の中央には、首のない巨大な蜘蛛の死体と、元・美魔女セリーネの無残な姿。そして、辺りには大量の小蜘蛛と、まるで蝋人形のように乾ききった人間の皮が散乱していた。
「遅いぞ、お前ら!」
大きな毒牙の美魔女セリーネが、半分、蜘蛛になりかけた状態で横たわっていた、完全に事切れている。
勇者アルベルトが満面の笑みで俺たちに手を振る。彼の足元には、毒牙の美魔女セリーネの首が転がっていた。
紫のドレスは血にまみれ、かつての妖艶さは見る影もない。
「お前……どうやって倒したんだ?」
俺は思わず聞いた。
「ははっ、毒殺しようとしてたんで、食べたふりをして、死んだふりの演技をしたのさ!」
アルベルトは誇らしげに腕を組む。
「そして俺を食べようとした小蜘蛛どもをぶっ潰してやった後、セリーネが巨大蜘蛛になりかけたところを一気に不意打ちで仕留めた! いやあ、巨大な蜘蛛に完全になっていたら手強かったぜ!俺一人じゃ、たぶん無理!」
「……それ、勇者の戦い方としてどうなんだ?」
「おいおい、敵も卑怯な手を使って俺を食おうとしてたんだぜ? こっちもやられる前にやるしかねえだろ?」
確かに、セリーネも毒殺という相当狡猾な手を使っていたらしい。ま、卑怯さは引き分けってことにしておくか。
俺たちは迷いの森を後にした。出口に差し掛かったところで、グリードがふっと息を吐きながら言った。
「……俺は、故郷に帰るわ」
「おっさん……」
勇者アルベルトがグリードの肩をガシッと掴んだ。そして、なぜかニヤリと笑う。
「じゃあさ、おっさんの故郷まで俺が送るぜ! 卒業旅行だ!」
「……は?」
俺とシスターマリアが同時に目を見開いた。
「リスクとシスターマリアは次の町で待っててくれ! おっさんを送った後に迎えに行く!」
「えええ!? ちょっと待ってくれ、それってつまり……」
「俺とおっさんの二人旅よ! 夜のお遊び付きでな!」
「お遊びって、お前……」
「ちょっと待ってください!!!」
バンッ! シスターマリアが杖を地面に叩きつける。俺たちはその迫力に思わず体をビクッとさせた。
「勇者様! あなたは世界を救う旅をしているのではないのですか!? こんなふざけた理由で寄り道をするなんて、どういうつもりですか!!!」
「まあまあ、シスター。アルベルトもグリースのおっさんと仲良くなったし別れが、寂しんだろ。」
俺が慌ててシスターマリアをなだめる。
「リスクさんまで何を言っているんですか!?そもそも、あなたもこんな無責任な勇者に振り回されているんですよ!?
それに、リスクさん! なぜあなたまで納得しようとしているのですか!? あなたも止めるべきでしょう!?」
「いや、まあ、その……アルベルトも色々あるんだよ、ほら、勇者だって人間だし、たまには息抜きも必要というか……」
「息抜き!? 息抜きですって!? 夜のお遊びが目的ではなくて!?」
「いや、それは……まあ、そういうのもあるかもだけど……」
シスターマリアの鋭い眼光が俺を貫く。やばい、これは完全に怒らせたパターンだ。
「大体、リスクさんはいつもそうなんです! 適当に流して、誰にでもいい顔をして、はっきりとした意見を言わない!! 今こそ、きちんと主張すべきではありませんか!?」
「いや、まあ……」
「まあ、じゃありません!!!」
「わ、わかった、わかったよ! シスターマリア、落ち着いてくれ!」
俺は両手を上げて宥めるように言った。
「まあまあ、俺たちは次の町へ行こうぜ。アルベルトは……楽しんだ後で合流な。」
「むぅぅぅぅぅぅ……わかりました!!」
シスターマリアがプイッと顔を背ける。だが、ほんの少しだけ頬が赤くなっているのを、俺は見逃さなかった。
怒った顔も可愛い…
シスターマリアは納得していないようだったが、俺の言葉に渋々従った。
こうして、俺とシスターマリアは次の町へ。
そして、アルベルトとグリードはグリードの故郷へと送る卒業旅行が始まったのだった。