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第八話 天空竜バハムートの出現

竜の谷――その最奥。

火竜の巣を抜け、山頂を目指す勇者一行。風が唸り、空が不穏にうねる。


「……風の流れが変わりましたわ」

黒魔術師マーリンが立ち止まり、空を見上げて呟いた。


「この風、ただの嵐じゃない……天が、怒ってる……」

シスターマリアの聖衣が風にはためく。祈るように胸の十字架を握る彼女の指先が、かすかに震えていた。


「……そろそろ話しておこう」

前を歩いていた竜騎士ガイアが、立ち止まり、仲間たちに背を向けたまま口を開く。


「俺にはかつて、直属の部隊があった。

 バハムート討伐隊精鋭二十騎、天を駆ける最強の空中部隊だった。」


「俺たちは命じられた。『天の王』と呼ばれるあの竜を、神の命により討てと。

 だが空に足を踏み入れた瞬間、空気が違った。……いや、格が違った。」


ガイアは拳を握る。鋼の手甲が軋む音が、沈黙の中に響いた。


「バハムートは何も言わなかった。ただ、我々を見下ろしただけだった。 そして一閃。雷鳴のような咆哮。竜騎士たちが空中で蒸発する様を、俺はこの目で見た。 俺だけが……俺だけが、死に損なった。」


仲間たちは息を飲む。ガイアの背に、かつての敗北が、悔しさが、誓いが、すべて刻まれていた。


「……だから、もう逃げない。俺は、ここでケリをつける。あの空の王に俺の竜騎士としての誇りを示す。」


その瞬間だった。空が、裂けた。


黒雲が引き裂かれ、天が二つに割れたかのような閃光。

雷鳴ではないそれは、咆哮だった。


挿絵(By みてみん)


空が、割れた。


ひときわ鋭い風が走り、天を裂くような紫電が走る。

次の瞬間、雲海を裂きながら現れたのは、漆黒の翼と金色の瞳を持つ超巨大な影。


「上を見ろッ!!」


リスクが叫ぶ。

全員が反射的に空を仰ぎ言葉を失った。


そこに現れたのは、天空竜バハムート。

天空を統べる、古の竜。

あらゆる空を支配し、気流を読み、大気すら従える至高の存在。


その身は山脈よりも巨大で、翼を広げれば空が黒く染まる。

鱗は黒曜のごとく硬質に輝き、瞳は黄金にして、星辰のような冷たさを宿していた。


「我が名はバハムート。天を統べしもの。

地底の竜が堕ち、天秤が傾いた。よって我、均衡を正すため、此処に現れた。」


その声は、心に直接届くかのように響く。

威圧ではない。絶対的な意志だった。


「貴様らがこの混乱の根源か……人の子よ、天の裁きを受ける覚悟はあるか?」


リスクの顔から血の気が引いた。

ガイアは無言でハルバードを握り直す。

アルベルトは天空の剣を構え、マーリンは静かに杖を掲げた。

シスターマリアがおびえている。


バハムートの眼が、すべてを見下ろす。


天空から雷が迸り、山頂の岩が砕け、風が竜巻となって巻き起こる。

その威光は、まさに空の神の降臨。


「来るぞ!!構えろ、ここが竜の最後の戦場だ!!」


竜の谷の頂で、伝説の空の王と人間たちの最終決戦が幕を開けた。


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