第六話 竜を信仰する村
飛空艇アストラ=バルムガンドを降り立った俺たちが辿り着いたのは、竜の谷のふもとにある山間の村
ドラコニス村。
山霧の中にひっそりと佇むその村には、独特の空気が漂っていた。
人々は天空を仰ぎ、竜の加護を口にし、日々を静かに祈りの中で過ごしている。
そう、ここは……天空竜バハムートを神として信仰する村だった。
当然、「今からその神を討ちに行きます」とは、口が裂けても言えない雰囲気である。
「バハムート様は天より授かりし神竜……怒りを鎮めるには祈るしかないのです」
と語る村の神父。
(……俺、これからバハムートの巣に殴り込むのに……)
後ろめたさに襲われながら、俺たちは村の中心にある「天空竜記念美術館」を訪れた。
そして、俺は見つけてしまったのだ。
ガラスケースの奥、神々しく輝くそれら
天空の兜、天空の鎧、天空の具足、天空の剣。
「こ、これはっ……!」
俺は鼻息を荒げながら、思わず駆け寄っていた。
「すみませんっ! この装備、譲ってもらえませんかっ!? 世界を救うためなんですっ!」
だが、応対した館長は渋い顔をして首を横に振る。
「申し訳ありません。これは我らが神への信仰の象徴。村の至宝であり、売り物ではありません。」
「そこを何とかっ! この装備があれば、天空竜バ……えーと、強大な“敵”とも戦えるんです!」
必死の交渉の末、館長がある条件を出してきた。
「……もしこれらを製作したドワーフの鍛冶職人たちが今も健在であり、同じものを再現できるのであれば……」
「量産化して提供し、村にレプリカを納めてくれるなら……」
「その際は、神具としての本装備は保持したまま、あなたたちにも“同じもの”を提供することはやぶさかではありません。」
天空竜バハムートを討つためには、伝説の装備《天空シリーズ》がどうしても必要だった。
竜を信仰する村のバハムート美術館に飾られた一式――
「天空の鎧」「天空の兜」「天空の具足」「天空の剣」
それはもはや芸術品。とても売り物ではないと館長エルンストは言った。
「なら、こうしませんか?」
リスクは一歩踏み出した。
「ドワーフの名工ゴルドンと組んで、これを“量産”します。展示品はそのままでいい。複製品の制作許可をいただきたい。」
エルンストは腕を組み、数秒黙した後、頷いた。
「……本気か? それができるなら、この地に新しい伝説が生まれる。」
即日、リスクはドワーフたちの拠点・要塞都市グラングロットへ飛んだ。
地下工房。魔導炉が轟く中、筋骨隆々のゴルドンはリスクの提案に即答した。
「面白ぇじゃねぇか! 素材と設計図は? ……あるな? だったらやるしかねぇだろ!」
製作はわずか三日。伝説の天空装備の《プロトタイプ》が完成した。
(プロト0試作型)天空の剣(空を飛ぶ敵に特効の剣/飛行タイプの敵に攻撃力+20%)
(プロト0試作型)天空の鎧(風・聖性ダメージ10%減)
(プロト0試作型)天空の兜(状態異常耐性アップ)
(プロト0試作型)天空の具足(俊敏性+15/地形効果軽減)
(プロト0試作型)天空の盾(風・聖属性ダメージ10%減)
(天空リーズにより風属性・聖属性の防御20%アップ)
その日の夕刻。リスクは勇者アルベルトを工房に招いた。
「アルベルト。お前が装備するんだ。」
「……え? 俺が?」
「そうだ。天空シリーズは英雄のための装備だ。最前線に立つお前が最も相応しい。」
ゴルドンがずっしりとした銀の鎧を差し出した。
「こいつは《天空シリーズ・プロト0》。軽量で高耐久、そして魔導補助で重力軽減機能つきだ。」
アルベルトは、ゆっくりと装備を身にまとう。
天空の兜が視界を広げ、
天空の鎧が胸を守り、
天空の具足が大地を踏みしめ、
天空の剣が青白い閃光を帯びた――。
「……力が満ちてくる。」
工房の空気が震えた。
仲間たちが息をのむ中、アルベルトが一歩、踏み出す。
「これは……まるで、風の中を歩いているようだ。」
ゴルドンが笑みを浮かべる。
「成功だな。これで量産にも弾みがつく。」
エルンストも深く頷いた。
「《神の加護》を受けた装備が、人の手で蘇ったか。村の誇りだ。」
リスクは静かに拳を握る。
「天空装備量産化、完了。バハムート討伐作戦、始動だ。」
こうして、伝説の《天空シリーズ》は現代に甦り、
その力は英雄たちの手に渡っていく。リスクは伝説の天空シリーズの量産化に成功した。