第2話 天界で悪魔の授業
天界第二分校
午前9時、白銀の鐘が鳴る。
天界の学園は、雲の上に浮かぶ巨大なキャンパス。
七つの塔と三千の教室を持ち、天使たちは「飛行学」「光魔法」「祈りの作法」「奇跡創造学」など、
優雅かつ高尚な授業を受けている
はずだった。
だが、その中でも悪名高いクラスがひとつ。
「3年ONI組」
前任の担任教師はノイローゼで退職。
“天使なのに悪魔のような生徒たち”と噂される、問題児の巣窟である。
校長・GODはさっちゃん先生に告げた。
「おぬしならば……あの地獄の心を持つ天使たちにも、光を見せられるかもしれん」
「……地獄? お任せください。そこの出身ですから。」
授業開始だが、教室はカオス。
ホログラム黒板には「天界倫理Ⅰ」と表示。
だが、前列の天使はおしゃべり、後列の天使は机にラクガキ、
中列の男子グループはスマホ(天界端末)で先生の顔を加工してSNS投稿中。
「あ、見て見てー! 鬼のモンスターと“さっちゃん先生”ってやつ、合成完了~!」
「うっわww 本気で似合ってるじゃん、“地獄のカップル”って感じ~!」
教室が爆笑に包まれる。
「はい、じゃあ順番に自己紹介してもらおうか!」
(無視)
さっちゃんの眉がピクンと動く。
沈黙を破ったのは、金髪で羽先に黒を混ぜた少年。善人ウラト。
「俺、ウラト。成績トップ。神の使いの中でも選ばれた天使。
でも教師なんて信用しない。前の先生も“俺らのせい”で辞めたらしいけど、
そんな弱いヤツ、ここにいる資格ないんじゃね?」
冷笑が教室に走る。
次に椅子を傾けながら立ち上がるのは、サングラス姿の偽善バイク。
「バイクっす。愛車は“ハレルヤ750改”。
授業? 出ねぇっす。天界も地獄も、力が正義っしょ。
先生、あんたも地獄帰りだって? じゃ、どっちが上か勝負します?」
最後に髪を三つ編みにした少女、慈愛アイコが立ち上がる。
「私、アイコ。慈愛の天使、だなんて呼ばれてたけど…
前の担任が“私の祈りを否定した”の。
だから教師なんて大嫌い。優しいフリして、生徒を壊す。」
空気が凍る。
他の生徒たちは、その三人の目配せ一つで沈黙。
“ONI組の三本翼”のクラスを支配する参謀たちだ。
黒板のチョークがバキィッと折れる。
さっちゃん先生の背後で、赤黒いオーラがゆらめいた。
「……あらあら、教師イジメねぇ。上等じゃないの。」
天井から落ちる羽根が、赤く焦げる。
副担任・大天使ミカエルが慌てて止めに入る。
「さ、さっちゃん先生っ!? ほどほどに! ここ天界ですから!」
「ほどほど? こっちは地獄仕込みよッ!」
ドンッ!!
次の瞬間、問題児たちの椅子がまとめて吹っ飛んだ。
床に落ちたスマホ端末が、煙を上げる。
「授業中にスマホ? はい、没収。次は羽むしるわよ。」
教室に静寂が訪れる。
そして、さっちゃん先生の声が響く。
「“鬼”の授業、始めるわよ。天使ども。」




