第四話 天空王国レティシア
―神殿のある空中都市、聖なる都の黄昏―
遥か天上、雲海のはるか彼方に浮かぶ伝説の王国
【天空王国レティシア】
この王国は、数千年の歴史を誇り、空と神に祝福された栄光の都市として、地上の人々からは“浮遊する神殿都市”と称されていた。
その都市構造は、浮遊する複数の層から成っていた。最上層には王城と神殿、中央層には市民街と魔導学府、そして最下層にはエーテル炉を擁する浮遊機関が存在した。今、その全てが無残に沈黙している。
吹き抜ける風が冷たく、しかしどこか聖なる残光を帯びていた。白銀の塔が崩れ、空中庭園は花びらのように宙を舞い、浮遊する魔導水路は干上がり、かつての繁栄が蜃気楼のように残響している。
王国の中心には、聖天神殿「アーク=レティシア」が鎮座している。
そこはかつて天空神を祀り、魔導と祈りが交差する神聖な地であり、王族と巫女たちが天の意志を受け継ぐ場でもあった。
大理石の柱に囲まれ、金色のドームが空に映える神殿は、空中都市のシンボルであり、レティシアの心臓でもあった。
王国全体は、同心円状の浮遊都市群で構成され、中心の神殿を取り囲むように、
王城と聖騎士団の塔
空中市街地と学術区
浮遊農地や空中港
が美しく配置されていた。
都市は魔導エーテル炉によって浮かび、飛空艇の中継地点としても栄えていた。
人々は空に生き、空を統べ、空を信仰していた。
だが今
神殿の尖塔は崩れ、空中庭園はちぎれた翼のように浮遊し、王国はまるで空に沈む大陸のように静かに死んでいた。
天を焦がす雷雲の主、天空竜バハムートの襲来によって、浮遊機関は破壊され、空の回廊は寸断され、王国は機能を喪失していた。
巫女たちは瓦礫に跪き、天を仰ぎながら祈っていた。
白銀の翼を持つ天空人たちは、神殿の広場に集い、祈りと共に空を見上げていた。その目は恐怖と絶望に染まりつつも、どこかで希望を求めていた。
巫女たち
「バハムートは天より遣わされた審判……レティシアの傲慢、魔導の暴走、地上を顧みぬ政治……
全てが、我らの罪が天に届いたのです……」
天空人の語る伝承に、リスクは耳を傾けていた。
王国の空を覆ったのは、古より封じられていたという天空竜バハムート。雷と風を操り、回廊を破壊し、神殿の防衛機構を無力化してしまったという。
その時――
「空の下で地上の者が情報を集めているとは、珍しいな」
鋼鉄の靴音が神殿の回廊に響き、そこに現れたのは竜騎士ガイア。
長身に黒銀の鎧をまとい、背には折りたたまれたドラゴンランスを背負っていた。鋭い視線の中に、どこか誠実さを湛えた男だった。
「あんたは……?」
「竜騎士団・第七翼隊、元隊長ガイア・ゼルフェリオン。バハムートと戦った数少ない生還者だ。」
「おぉ〜ドラグーンってやつデスネ!爆裂系の空戦職、燃える〜!」
ユスフは興奮している。
「落ち着きなさい。あなた、目がギラギラしてるわよ。」
リスクは、ガイアから衝撃の情報を得る。
「バハムートはどこにでも現れるわけじゃない。奴は空の“中心”に巣を持っている……場所は《竜の谷》だ。」
「竜の谷……それって、天空の地殻変動で生まれた裂け目。魔力の乱流と浮遊岩で覆われた、迷宮みたいな空間じゃない!」
「ああ。そしてその最深部に、奴の巣がある。我々竜騎士団はかつて討伐に向かったが……全滅した。」
一瞬、空気が凍った。
ガイアは続ける。
「だが、君たちにはまだ可能性がある。君が纏うその《天空装備》……そして、飛空艇《アストラ=バルムガンド》の魔力と武装。すべてが揃っている。」
リスクは拳を握りしめた。
「つまり……行くしかないんだな。竜の谷へ。バハムートの巣に。」
ガイアは静かに頷いた。
「俺も同行しよう。あの灼熱の巣穴を、もう一度、今度こそ、決着をつける。」
こうして、伝説の竜騎士と新たな空の勇者たちが手を取り合い、バハムートを討つため《竜の谷》へ向けて飛空艇を加速させる。
空は暗雲に覆われ、雷鳴が轟き始めていた。