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【ランキング12位達成】 累計52万6千PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:嘘つき 投資家殺人事件』

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第八話 逃げる女 ― 羽田空港国際線ターミナル

午前4時。

羽田空港、国際線ターミナル。


滑走路を見下ろす通路の窓ガラス越しに、

制服の警備員が赤い小箱を手にした女を見たという通報が入った。


「川辺優菜の特徴と一致。」

岡野刑事の声が無線に響く。


到着フロアはざわめきに包まれ、カズヤとアイゼンハワードは人の波をかき分けて走った。

行き交うトランク、フラッシュのように点滅する電光掲示板。

その中で、黒いトレンチコートの女が一瞬振り向く。


川辺優菜。


カズヤの目が鋭く光る。

「いた……!」


優菜は気づいたように歩を早め、

雑踏の中を縫うように進む。

エスカレーターを逆走し、出国ロビーへ駆け上がった。


アイゼンハワードが追う。

「逃げ足が速いな。まるで“訓練された獣”だ。」


優菜はバッグからスマートフォンを取り出し、

通話ボタンを押した。

混線する雑音の中で、彼女の声だけが冷たく響く。


「計画は続ける。 資金はもう“移した”。

 私を止められる人間なんて、どこにもいない。」


アイゼンハワードはその声を聞きながら、

ふとつぶやいた。


「動機は単純だ。金と愛の逆転。 愛を信じた男たちは、彼女に投資した。

 だが彼女にとって、愛はただの“原資”だった。」


カズヤは眉をひそめる。

「つまり、最初から中島も斎藤も利用された……?」


「そうだ。 中島を利用して投資金を集め、斎藤からも資金を引き出しすべて自分の名義口座にプールしていた。しかし斎藤が真相に気づき、暴露を示唆した。中島は彼女を庇おうとしたが彼女は“計画を守るため”二人を消す決意をした。」


優菜はエレベーター前で立ち止まり、

小さく笑った。


「愛なんて、投資より利回りが悪いわ。」


その言葉が、

まるで最後の取引のサインのように響いた。


その瞬間、岡野刑事が背後から叫ぶ。

「動くな、川辺優菜!」


十数人の警官が一斉に包囲する。

優菜は静かに両手を上げた。

だが、彼女の瞳にはまだ諦めの色はない。


アイゼンハワードがバッグを取り上げ、中を確認した。

そして、息を呑む。


「……これは。」


中には一台のスマートフォン。

画面には、中島翔太の顔写真。

そして未送信のメッセージが表示されていた。


『優菜、俺はもう逃げない。どんな結果になっても、君だけは守る。』


沈黙が落ちる。

優菜の肩が微かに震えた。


カズヤが低く言う。

「そのスマホが動かぬ証拠だ。彼を捨てきれなかったんだな。」


優菜は唇を噛み、

静かに目を閉じた。


「……彼だけは、計算外だった。」


外では、夜明け前の飛行機が滑走路を走り出す。

赤い灯が彼女の頬を照らし、

まるで“血の指輪”のように輝いていた。


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