第12話 最強の盾
食糧庫に突如現れたのは、八本の巨大な足を持つ蜘蛛の怪物。毒液を滴らせる牙を光らせながら、双子の妹・ナターシャが妖艶に笑っている。
名前: ナターシャ(巨大な女郎蜘蛛)
体力:430
攻撃:82
防御:45
素早さ:30
この世界で下半身が巨大な蜘蛛で上半身が半裸の女性のモンスター。酸液と蜘蛛の糸、毒の牙で冒険者を襲う。
【リスクの防御が0から−15へ低下しました】
「ぎぁああああああ……ッ!!」
ゼロの能力者のスキル発動!!
俺の身体は今度は銀色に光輝いた。
なんだこれは、またゼロ能力者である俺のレアスキルの隠れた能力なのか?
Aegis Absolute (アイギス・アブソリュート)――絶対防御の盾が発動した。
目の前に表示された俺のステータスが修正され、浮かび上がる。
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名前:リスク
レベル:2
体力:15
攻撃:0
防御: 0 +985(アイギス・アブソリュート効果中)
素早さ:0+978(ライトスピード・エグゼキューション効果中)
魔力:0
賢さ:8
運:10
この世界で、最も弱いスライムに負けた男。
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そうか、この”ゼロの能力者”のスキルの発動条件はマイナスのステータス効果を受けた時に発動するのだとリスクは、ようやく理解をした。
巨大な蜘蛛のモンスター、ナターシャの八本の足がギチギチと軋みながら動き、今にも飛びかかってきそうだった。
「この村人がぁ……消えろ!!」
ナターシャが高らかに叫びながら、鋭い蜘蛛の足を振り下ろす。
「くっ……!」
だが、その攻撃はリスクの身体に届くことなく弾かれた。
「……効いていない?」
ナターシャの目が見開かれる。
アイギス・アブソリュート効果中のため、リスクの防御は+985になっている、よってダメージ0でナターシャの攻撃を弾き飛ばした。
「なんだとー!?お前は、何者だ!!」
リスクはゆっくりと口を開いた。
「俺は……スライムに負けた男だ」
一瞬の沈黙。だが、それが余計にナターシャの怒りを煽った。
「ふざけるなぁああ!!」
ナターシャが再び足を振り下ろそうとする。
「リスクさん、そこをどいてください!!」
シスターマリアの声が響く。
「聖なる光を我に……ライブラ!」
彼女の杖から閃光が放たれ、聖なる光線ががナターシャの顔を直撃する。
「ギャアアアアア!! 私の美しい顔をよくも……許さない!!」
怒りに燃えたナターシャの目が真紅に輝き、シスターマリアへと狙いを定めた。
「シスターマリア、危ない!!」
ナターシャの大顎が開き、粘り気のある酸液が放たれる。
「俺が盾になる!!」
リスクはとっさにマリアの前に飛び出した。
ジュウウウウウッ!!
「痛い痛い痛いよー身体が溶けちゃう!!」
皮膚が焼けるような感覚にリスクは叫ぶ。しかし、その瞬間――
【リスクの防御が0から−15へ低下しました】
ゼロの能力者のスキル発動!!
またしてもリスクの身体が銀色に輝く。
Aegis Absolute (アイギス・アブソリュート――絶対防御の盾!
酸液が弾かれ、リスクの身体は無傷だった。
「リスクさん、その調子です!」
「よし、もう一度……聖なる光を我に! ライブラ!」
再び放たれた聖なる閃光がナターシャの顔面を焼く。
「ぎゃあああああ!!私の美しい顔がああ溶けていくぅううう」
悲鳴が食糧庫の中に響き渡る。
その隙を突き、起き上がったグリードがナターシャの背後に跳びかかった。
「積年の恨みを晴らさせてもらうぜ!!これで終わりだ!」
グリードの鋭い爪がナターシャの顔を横に引き裂く。
「ぎ……ぁ……!」
ナターシャの首が90度曲がり、その巨大な身体が地面に崩れ落ちた。
ドオオオオオオッン!!!
「リスクさん、やりましたね!」
シスターマリアが勝利に喜び、飛び跳ねながら満面の笑みを浮かべる。
その笑顔が可愛すぎて、俺は思わず心が癒されるのだった。
そして、この戦闘により俺はレベルが2も上がった。
俺の体にじんわりとした温もりが広がる。
《リスクのレベルが上がった!》
《運が3上がった!》
《賢さが6上がった!》
《新しいスキル「買いたたきテクニック」を覚えた!》
またしても、戦闘には全く役に立たない商人のスキルだった。