第一話 魔導飛空艇、完成
ザルツブルクの技術工房都市に、歓声が轟いた。
魔塔融合生命体ルナアクシスを討ち倒し、リスクたちは悲願だった魔導心臓を手に入れることに成功した。そして今日、それを搭載した世界初の魔導飛空艇が、ついに目覚める。
工房ドームの中心で、それは静かに鼓動していた。
巨体に宿る魔力が、青い脈となって艦体を走り、推進ノズルが「ボゥン……」と低く唸る。
「できたぞォォォ!我が生涯最大の発明品、魔導飛空艇の完成だッ!!」
エジソン工房の天才発明家、エジソンソンが叫んだ。白衣は油と煤で黒く染まり、髪は爆風で逆立っているが、瞳だけは少年のように輝いている。
「こいつは空を裂く!雷より速く、雲より高く!お前らの旅は、ここから本当の空へ続くんだッ!」
「すげえ……」リスクは、ただ呆然と機体を見上げた。
「……俺たち、本当に、空を飛ぶんだな……」
だが、そこに冷静な声が落ちた。
「名前、どうするの?」
黒魔術師マーリンだった。杖の先で魔導端末を操作しながら、ぞんざいに呟いた。
「このままだと、工房の仮称『フリードリヒZ型魔導飛空艇Mk-VII試作壱号』が艦名登録されるぞ」
「長すぎる、それは、絶対イヤだ!!」
リスクが即座に叫んだ。
「工場名『ビクウテイ(鼻腔邸)』でよいか?」
「鼻腔って何!?鼻の奥!?飛ぶ船にそんな名前つけんなよ、エジソンソン!」
「ふむ?いいと思ったんだがな……鼻で吸い込むように、空気を滑る。軽やかなイメージだろう?」
エジソンソンは本気だった。
「却下だ。全力で却下だ」
アルベルトが淡々と支持した。
「というわけで、艦名をみんなで決めしょう。」
そう言い出したのは、シスターマリアだった。神官らしく、穏やかに手を叩いて言った。
「投票にしましょう。民主的に」
【飛空艇命名会議】
魔導飛空艇の完成を祝う晩餐のあと、リスクたちは工房の奥に集まっていた。
円卓には、色とりどりのペンとパーチメント。中央には「飛空艇 名前候補」と大書された看板。
さあ!我が子の名を決めるぞォォ!命名会議、開☆催☆じゃあああああ!」
「なんか思ったよりテンション高いぞこの発明家!」
「ちゃんと投票形式でやりましょうね。神に誓って公正に。」
「ふむ。こういうのは勢いより格式が大事だ。威厳のある名前が望ましいな。」
「ふふ……ここは"魅惑の黒翼号"とか、"アビス=シンフォニー"なんてどうかしら?」
第一ラウンド:各自の候補発表!
エジソンソン:「ワシの推しはこれだァァ!」
→《バルムガンド》:雷鳴と機械の龍をイメージした名前!
アルベルト:「我が騎士団風にいけばこれだ。」
→《アストレリオン》:空の星々を駆ける誇り高き名!
マーリン:「ふふ……名は力よ。」
→《ノクターナ=ヴェイル》:闇と神秘のヴェールをまとって飛ぶのよ!
シスターマリア:「天に祈るような名がいいわ。」
→《セラフィマ・ルミナ》:天使の導き、光の名。
ユスフ=メルハバ:「オレはテンション重視でコレ!」
→《ドッカーン★マジカル爆裂号》:即却下された。
リスク:「えーっと、俺は……」
→《ソラノヴァ》:シンプルだけど響きが気に入ってる。
「誰だお前!」
リスクは飛空艇の命名会議に突然現れたユスフ=メルハバを指さした。
続く