第11話 魔導心臓へ到達
魔塔融合生命体ルナアクシスの背中を這い進み、俺はついに、最奥部である魔導心臓の間へとたどり着いた。
ここに来るまで、俺は何度も死にかけた。ルナの塔にあるトイレのような排泄室に息を殺して隠れ、ロッカーのような収納ユニットに体を押し込み、ベッドの下で振動を耐えながら時間を稼いだ。
まるでホラーゲームの主人公だ。というかもう、ほぼそれだった。
フォンフォンフォンフォン……。
脳内に直接流れ込んでくる不気味なBGM。
思考を乱す不協和音の渦、魔導音干渉だ。
そして、部屋の中央。
ツタのような魔導血脈に絡みつかれた、光る“心臓”が鼓動していた。
そのときだった。
「こら!村人、これ以上近づくな!!」
空間に、闇の司祭カザールの映像が現れた。
かつて俺たちを翻弄した宿敵。その視線は、いまだ俺を“ただの村人”としか見ていない。
「ふん。俺はもう村人じゃないぜ」
カザールの映像が杖を振る。
ゴゴゴゴゴゴ――!
魔導の巨大な壁がズドンと出現。俺の進路を完全に塞いだ。
だが、俺には切り札がある。
俺は道具箱を開き、腐海なダケを手に取る。そして
パクッ
もぐもぐ……。
「…………うああああああああああああああああッッ!!!」
【リスクの攻撃力が−5になりました】
「……な、なんだこの不快感……!
二日酔いの朝の満員電車で、換気壊れてる車両に閉じ込められた感じだッ……!」
全身が銅色に光りはじめた。
「ゼロの能力者、三つ目のスキル――!」
《Excalibur――エクスカリバー》、起動!
毒に酔いしれた状態での、限界の一撃。
「マイン○ラフトだぁああああ!!」
俺は毒針を手に、魔導の巨大な壁を一突き。
ズガァアアアアン!!
壁が砕けた。
「やめんか!近づくでないッ!!」
カザールの映像が再び杖を振る。次の壁が立ち塞がる。
だが俺は止まらない。毒針を連打しながら、魔導心臓へと掘り進んでいく!
「わしの最後の禁術があぁあああああ!!」
カザールの声が絶叫に変わる。
そして――
ズバッ!!
俺は魔導血脈を毒針で切断した。
その瞬間――
ズゥゥゥンンン……
ルナアクシスの心音が止まった。
巨大な魔塔融合生命体は、生命維持を失い、崩壊を始める。
「がはッ……わしの……魂が……ああああああッ!!」
カザールの映像は煙のように消え、魂もろとも霧散した。
外では、空を貫いていた巨人塔が、ぐらりと揺れ……
ドォオオオンン!!
前のめりに大地へ倒れた。
「……さて。ついにこいつを使う時か」
道具袋から、黒ずんだ盾を取り出す。
黒く不気味な呪われた鉄のにおい。見ただけで不気味だ。
破滅の盾。呪いが起動する。
【リスクの防御が0から−100へ低下しました】
「ぎぃゃあああああああああああああッッ!!」
「ちょっ、これホントやばい!!魂がズタズタになる感覚なんだけどッ!!誰か止めてくれぇぇ!!」
しかし、次の瞬間――
俺の全身が銀色に輝きはじめた。
《Aegis Absolute――アイギス・アブソリュート》
【リスクの防御が+900されました】
そして――
ルナの塔のがれきの中から、破滅の盾を掲げた俺がゆっくりと立ち上がる。
俺たちは、魔塔融合生命体に勝利した
静寂と風の音。
それは終わりを告げる音でもあり、新たな始まりの鼓動でもあった。