第10話 逃走するあのゲーム?
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名前 ルナアクシス(Luna Axis)
レベル:??
体力:99999
攻撃:12000
防御:10000
素早さ: 3(移動は遅いが攻撃範囲は広大)
魔力:5000
賢さ:ーーー
運:ーーー
胴体は主塔。両腕は副塔が折り重なるように形成されている。
背中からは魔力を循環させる「黒の環」が浮かび、常に雷光が放たれている。
顔の位置に闇の司祭カザールの巨大な魔眼が浮かび、すべてを見下ろしている。
胸部の「心核」に魔力供給源となる魔晶核(カザールの魂の核)が埋め込まれている。
この世界で闇の司祭カザールが自らの肉体と魂、そして魔導構造物「ルナの塔」を融合させて生み出した終末存在。
固有スキル
【魔導】 状態異常スキル不可
【 自動再生】 毎ターン体力・マジックポイント10%回復(内部の魔核が健在な限り)
【重力歪曲場】 周囲に重力フィールドを展開、飛行・魔法弾道を妨害。
【魔眼制御】魔力がある者の敵全体の隠密・透明化を無効化し、状態異常を解除させない
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ズン、ズン、ズン……。
魔塔融合生命体の一歩ごとに、大地が軋み、空が歪む。
その巨体の“足”にあたる構造物かつて塔の基礎だった魔導外壁の破片の隙間を、俺は這うように潜り抜けた。
(ここが……中か?)
中は、まるで生きた迷宮だった。
壁が脈打ち、床が呼吸している。
魔導構造物とは思えない、まるで巨大な内臓の中にいるような感覚。
そして、そこに現れたのは――
魔導白結球
魔導赤結球
白と赤の球体が、ぶよぶよと浮遊しながら、淡く光る管の中をパトロールしていた。
「異物侵入、検知ヲ開始……」
「エリアA2、スキャン続行中……」
(くそっ……完全に免疫システムだ。こいつら、塔に侵入した異物を“病原体”として処理する気だ)
その姿は、まさしく“単球生体の免疫防衛を担う細胞のようだ。
この塔は、まるごとひとつの“生命体”なのだと、嫌でも実感させられる。
だが、こんな状況でも俺にはある武器があった。
魔力が1の俺はそう《空気のような存在》だということだ。
(この状況……逃げながら隠れながら進む……そう、まるで逃走するあのゲームみたいだな)
右へ、左へ、影に潜み、時に吊り天井の間に身を滑り込ませ、俺は“魔導の心臓”を目指して進み続けた。
その時だった――不意に背後から声がした。
「ひっ!? あ、あんた誰っ!? うわっ、ちょ、近寄んなって!」
(な……馬鹿!?)
小声ですら致命的なこの状況で、何やら荷物袋を抱えた泥棒らしき男が、影から飛び出してきたのだ。
ゴチャついた歯並び、汗まみれの顔、盗んだ品がガチャガチャと音を立てる。
こいつ、ルナアクシスに便乗して入り込んだ雑魚か!
だが、すでに遅い――!
《異物ハッケン》《異物ハッケン》《異物ハッケン》《排除セヨ》
白結球たちが、壁の管からずるりと這い出した。
機械的な咆哮と共に、浮遊球体の口腔部が割れ、鋭い牙が並ぶ。
「や、やめろっ! 俺じゃな……ぎゃああああああ!!」
バク、バク、バク……。
白結球たちが泥棒を“病巣”として噛み砕き、貪り、やがてその形すら残さなかった。
数分後、残ったのは、ドロドロとした液体と、かすかな腐臭のみ。
(泥棒さんは……のちのウンコである)
俺は、壁のひび割れから上層へとそっと移動した。
塔の背中にあたる、魔導心臓へと続くルート。そこが本当の戦場――ルナアクシスの心臓部だ。
(俺は“異物”じゃない。……俺は、止めに来たんだ)
静かに、しかし確かな決意を胸に、俺は魔塔融合生命体の体内をさらに奥へと進んだ。