第9話 魔塔融合生命体
空が悲鳴を上げるかのように暗転し、雷鳴が大地を震わせた。五本の巨大な魔導塔が、地を割って同時に魔力を噴出する。中心に聳える「ルナの塔」すでに半壊していたはずのその塔が、周囲の四本の副塔と赤黒い魔力の鎖で結ばれ、今まさに意思を持って目覚めようとしていた。
「塔が……動いているだと!?」
勇者アルベルトが地鳴りの中で叫ぶ。空が燃えるような赤に染まり、巨大な影が地を這い、雷の中から姿を現す。
魔塔融合生命体
闇の司祭カザールが、自らの肉体と魂を捧げ、ルナの塔そのものと融合させて生まれた、終末を告げる魔導生命体。
「これが……カザールの切り札……」
マーリンの声がわずかに震えた。300年生きた魔術師の目にも、あれは規格外だった。
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名前 ルナアクシス(Luna Axis)
レベル:??
体力:99999
攻撃:12000
防御:10000
素早さ: 3(移動は遅いが攻撃範囲は広大)
魔力:5000
賢さ:ーーー
運:ーーー
胴体は主塔。両腕は副塔が折り重なるように形成されている。
背中からは魔力を循環させる「黒の環」が浮かび、常に雷光が放たれている。
顔の位置に闇の司祭カザールの巨大な魔眼が浮かび、すべてを見下ろしている。
胸部の「心核」に魔力供給源となる魔晶核(カザールの魂の核)が埋め込まれている。
この世界で闇の司祭カザールが自らの肉体と魂、そして魔導構造物「ルナの塔」を融合させて生み出した終末存在。
固有スキル
【魔導】 状態異常スキル不可
【 自動再生】 毎ターン体力・マジックポイント10%回復(内部の魔核が健在な限り)
【重力歪曲場】 周囲に重力フィールドを展開、飛行・魔法弾道を妨害。
【魔眼制御】魔力がある者の敵全体の隠密・透明化を無効化し、状態異常を解除させない
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「撃て、塔よ。我が魂と共に、全てを呑み込めッ!!」
ルナアクシスの胸部主塔から、暗黒の光がうねり出す。
《重魔導砲:終末の炬火》――発射。
轟音。光線が地表を薙ぎ、山々を切り裂く。
勇者パーティは必死に回避するも、爆風に巻き込まれ、吹き飛ばされる。
「くそっ…こいつは…塔じゃない…要塞だ!」
アルベルトが立ち上がりながら剣を構える。
「今のが直撃してたら、跡形もなかった…!」
空が黒くうねり、雷鳴が響く。
続けて副塔のひとつから――
《次元干渉砲:ヴォイド・クレイドル》――発動。
黒紫の渦がシスターマリアを狙う。
「きゃあっ!」
「脚部が動いた! 来るぞッ!!」
《塔脚蹂躙》
ズドォォォン!!!
巨大な足が地を踏みつけるたび、地面が陥没し、戦場が瓦礫と化す。
勇者アルベルトは飛び散る石をドラゴンシールドの盾で受け止め、血を流す。
「これじゃ攻撃する隙もない!」
乱戦の渦中、闇の司祭カザールは不敵な笑みを浮かべ、揺るがぬ姿勢のまま下方を見下ろした。そして、まるで呪詛のような重低音で
「魔力があるものは隠れていてもすぐわかるぞ!」
と言い放った。その声は戦場に轟音のように響き渡り、鮮血色の霧がさらに深く垂れこめた。 カザールの言葉に呼応するかのように、塔
全体が唸りを上げた。石壁に刻まれた古代のルーン文字が青白く光り、足元の床板が激しく振動する。鋭く飛び交う稲妻がカザールを包み込むように輝き、まるで塔自体が魔力の息吹を感じ取ったかのような異様な臨場感が満ちていた。
《黒雷連弾:テンペスト・フォール》
無数の雷が空から降り注ぎ、森が燃え始める。
「このままじゃ、俺たちが焼かれる!」
爆炎の中、リスクは風にあおられながら、ふと何かに気づく。
マーリンが以前、爆裂魔法で破壊した副塔の残骸
「……あそこ、壊れてる!?」
瓦礫の隙間。そこにぽっかりと空いた“裂け目”があった。
熱気の中から、うっすらと魔導回廊のようなものが覗いている。
「もしかして……ここから中に入れるんじゃ……!?」
勇者たちがルナアクシスの巨体と激闘を繰り広げる中、
リスクは仲間に叫ぶ。
「見つけた! 塔の内部へ通じる道だ! 俺が行く!」
マーリンが振り返る。
「一人で行く気?バカじゃないの?」
「俺しかいない。魔力がないゼロ能力者だから、内部警戒には引っかからないはずだ!時間を稼いでくれ!」
アルベルトが頷く。
「任せろ。ここで倒れるわけにはいかない!」
「リスクさん私も祈ってるわ…!生きて帰ってきてください!」
マリアが叫ぶ。
雷鳴の中、リスクは瓦礫の隙間に身体を滑り込ませた
魔塔融合生命体の心臓を、止めるために。




