第11話 晩餐会
女装した勇者アルベルトは、シャンデリアの光が煌めく大広間へと足を踏み入れた。豪華な絨毯が床を覆い、壁には荘厳な西洋絵画が並ぶ。長大なテーブルには、贅を尽くした料理が並び、銀の燭台が柔らかな光を放っていた。しかし、その場にいるメイドや執事たちは一言も発することなく、ただ機械的に料理を運び続けている。
「……こいつら、気味が悪いぜ。」
アルベルトは小さく呟いた。
その時、優雅な足取りで螺旋階段を降りてくる紫色のドレスを纏った貴婦人の毒牙の美魔女セリーネが現れた。艶やかな黒髪に妖艶な微笑み、まるで時間が止まったかのような美しさ。
「まあ、綺麗なお嬢さん。今宵はごゆっくりと楽しんでくださいな。」
「……ありがとうございます。本当に助かります。」
アルベルトは礼儀正しく微笑み、椅子に腰を下ろした。
「さあ、食事を楽しみましょう。」
セリーネは赤い唇を歪め、ナイフを手に取りながら言った。
「このお肉、とても新鮮なのよ。今日おろしたて潰したばかりなの。」
アルベルトが皿に目を落とすと、赤みを帯びた肉が綺麗に盛り付けられていた。ほんのりと血の匂いがする。
(……まさか、人肉じゃないよな?)
疑いを抱きつつも、アルベルトはスプーンを手に取り、一口食べた。
その瞬間。
「――ぐっ!? げほっ……!!」
彼の喉から苦しげな声が漏れ、口から食べたものを吐き出した。全身が痙攣し、視界が歪んでいく。
「あら、大変。どうしたのかしら?食事があわなかったのかしら…」
セリーネは、まるで本当に心配するような声を出したが、目元には余裕の笑みが浮かんでいる。
「まあまあ、勇者アルベルトさんが死んでしまうわ……私の毒液によってね。」
アルベルトの手足が硬直し、意識が遠のいていく。
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一方その頃、食糧庫に現れたのは、八本の巨大な足を持つ蜘蛛の怪物。毒液を滴らせる牙を光らせながら、双子の妹・ナターシャが妖艶に笑った。
「美味しそうね……食べちゃいたいわ。」
シスターマリアが恐怖に身をすくめる。
「くそっ!」リスクは背後から木の剣でナターシャの腹部を殴った。
ペチン。
「……えっ?」
「ふふ……それが攻撃のつもり?」ナターシャは冷笑した。
(ダメージが通らない……俺の攻撃力は0だからか!?)
「面倒ね。村人はあっちへ行きなさい。」
ナターシャが手を振ると、粘着性の高い蜘蛛の糸が飛んできた。
「うわっ!」
リスクは壁に糸ごと張り付けられ、身動きが取れなくなった。
【リスクの素早さが0から−22へ低下しました】
(やばい……俺はまた何もできないのか……?)
目の前でナターシャがシスターマリアに牙を向ける。
(くそっ……助けなきゃ……でも俺は……!)
そのときだった。
ゼロの能力者のスキル発動!!
リスクの身体が突然、黄金に輝き始めた。
「な、なんだこれは!?」
Lightspeed Execution――光速の実行。
次の瞬間、リスクの身体は閃光となって弾け、蜘蛛の糸を破り、シスターマリアの前へと瞬時に移動していた。
「なっ……!?」
「はあああああっ!!」
リスクは光速の拳をナターシャへと叩き込んだ。
ペチペチペチ。
「……えっ?」
「……くっくくく……」
ナターシャは吹き出すように笑った。
「そんな攻撃、痛くも痒くもないわ!」
「……!」
シスターマリアが杖を掲げた。
「聖なる光がリスクを記す、ステータス!」
リスクのステータスが目の前に表示された。
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名前:リスク
レベル:2
体力:15
攻撃:0
防御:0
素早さ:+978(ライトスピード・エグゼキューション効果中)
魔力:0
賢さ:8
運:10
この世界で、最も弱いスライムに負けた男。
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「……攻撃力は0のままなのか……」
「脅かしやがって、雑魚が!」
ナターシャの目が赤く光り、リスクに向けて酸液を吐き出した。
「ぎゃああああ!!」
リンクは酸液を全身に浴びて絶叫した。
【リスクの防御が0から−15へ低下しました】
その瞬間――
ゼロの能力者のスキル発動!!
リスクの身体が銀色に輝いた。
Aegis Absolute――絶対防御の盾。
が発動したのだった。