プロローグ 廃墟の町
深い霧が町を覆っていた。
かつて人々の笑い声が響いた通りは、今やひび割れた舗道と倒壊した建物の残骸だけが並ぶ。窓ガラスは砕け、壁には黒ずんだ汚染の跡が広がっていた。
風が吹くたび、空虚な軒先からはかすかな軋む音が響き、まるで町自体が呻いているかのようだった。
探偵カズヤは、肩に掛けたコートをぎゅっと締めながら、廃墟となった町の入り口に立っていた。隣には、奇怪な佇まいの魔族のおっさんアイゼンハワード。
人間のようでもあり、どこか異界の存在のようでもあるその影が、霧の中で静かに揺れていた。
「ここが、あの町か…」
カズヤは小さく呟く。
かつての栄華は跡形もなく、ただ死の静寂だけが辺りを支配している。
「町を滅ぼしたものは、人間の愚かさか、それとも別の何かか」
アイゼンハワードの声が、かすかにこだまする。
足元の瓦礫を踏むと、乾いた音が霧の中に吸い込まれた。街灯はほとんど消え、残ったわずかな光が壁の汚染跡を赤黒く照らす。
カズヤは直感した。この町には、人間が隠してきた悲劇の記憶がまだ、空気の奥深くで息を潜めている。
「記録を辿ろう。足跡と証言の残骸を真実の怪異を見つけるために」
アイゼンハワードが呟く。
その声に応えるように、カズヤは歩を進める。霧に包まれた廃墟の町の中、どこからか、かすかな足音が響き始めた。
町は滅びた。しかし、滅んだはずの記憶と怨念が、静かに息づいている。
足元の瓦礫を踏むと、乾いた音が霧の中に吸い込まれた。街灯はほとんど消え、残ったわずかな光が壁の汚染跡を赤黒く照らす。
カズヤは直感した。この町には、人間が隠してきた悲劇の記憶がまだ、空気の奥深くで息を潜めている。
「記録を辿ろう。足跡と証言の残骸を――真実の怪異を見つけるために」
魔族のおっさんが呟く。
その声に応えるように、カズヤは歩を進める。霧に包まれた廃墟の町の中、どこからか、かすかな足音が響き始めた。
突然、瓦礫の山の奥から冷たい風が吹き抜け、霧が渦を巻く。
その中から、かすかな人影が浮かび上がる。形は人間のようだが、動きはぎこちなく、まるで生者と死者の狭間にいるかのようだった。
「……誰だ……?」カズヤは息を詰める。
人影はゆっくりとこちらを向き、赤黒い光を帯びた瞳が霧の向こうで瞬く。
町の廃墟に、初めての怪異がその姿を現した。
そして、足音は一層近づいてくる。
カズヤと魔族アイゼンハワードは、互いに目配せを交わす。この町に潜むものは、単なる廃墟の怨念ではない。生者の心の闇と、滅びの記憶が混ざり合った“生きた怪異”だった。