第7話 鏡の中のヒーロー
雨上がりの撮影所。
カズヤは、赤い足跡が消えた倉庫の床を無言で見つめていた。
そこには、戦闘スーツの電子音も、村上光一の叫びも、もう残ってはいなかった。
「……二人いた。だが、もう一人は“人間”じゃない気がした」
アイゼンハワードが呟く。
その手には、現場から回収した金属片が握られている。
「見ろ、これは照明スタンドの部品を加工した刃。
まるで誰かが、急ごしらえで“凶器”を量産していたようだ」
カズヤの視線が鋭くなる。
「つまり“仕込み”があったんだな」
スタジオ控室・翌日
ピンク隊員、高橋さくらは、疲弊した顔でソファに座っていた。
その手には勇也、レッドの遺影が握られている。
カズヤとアイゼンハワードが静かに入室する。
「……もう、逃げるのはやめにしよう。君があの夜、何を見たのか」
カズヤの声は、優しくも鋭かった。
しばし沈黙。
さくらは震える唇で語り始める。
「勇也は……誰かに脅されてたんです。
“正義を売るヒーローには、黒い影が似合う”って、そんなメールを何度も……」
「差出人は?」
「わかりません。ただ撮影所の中の人だと思う。勇也、最近ずっと怯えてました」
アイゼンハワードがメモを取る。
「その夜、倉庫で会っていたのは?」
「……村上さん。でも、あの人は殺してません。勇也は……もう一人の誰かに呼び出されたんです」
カズヤが前のめりになる。
「もう一人?」
「ええ。『第七の戦士』を名乗る男。彼が……勇也に会いたいって」
室内に緊張が走った。
さくらの目には恐怖の色があった。
「私、見たんです。 夜の撮影所で、レッドスーツを着た二人が向かい合ってた。 そのうちの一人が、“私の勇也”じゃなかった」
外では警察の車両が行き交い、捜査が再開されていた。
カズヤとアイゼンは、照明班の倉庫で証拠を確認する。
「このスタンドの傷……田辺が仕込んだ跡だな」
カズヤが指でなぞる。
照明助手・田辺。事件直後に姿を消した人物。
「田辺が何かを隠している。もしくは、誰かに“隠させられている”」
アイゼンはわーどは冷静に結論を出す。
「犯人は現場を熟知している。動線、照明、カメラの死角……つまり、“内部関係者”だ」
カズヤは静かに頷く。
「だが、内部の誰が“謎の男”と繋がってるかが問題だ」
夜、撮影所の再現現場
スタジオの照明が再び灯される。
カズヤは勇也の立っていた位置に、アイゼンは“第七の戦士”の立ち位置に立った。
「勇也は左胸を刺されて即死。しかしナイフの角度が低い……つまり、犯人の身長は勇也より低い」
「犯人は女、もしくは小柄な男」
「そう。だが村上は180cmある。だから違う」
カズヤの目が、ピンク隊員の控室方向へ向いた。
だが次の瞬間、アイゼンが首を振る。
「違う。彼女は“見た”側だ。殺す動機ではなく、守る動機があった」
カズヤは静かに呟いた。
「となると、残るのは……田辺と、“謎の男”」
そのとき、背後のスピーカーから電子音が鳴る。
ピッ、ピッ、ピッ。
倉庫の奥で、モニターがひとりでに点灯した。
画面には、覆面の男が映っていた。
赤いスーツ。声を変えた低い声。
「勇也は、ヒーローを演じた報いを受けただけだ。正義を名乗る者に、愛を語る資格はない」
アイゼンハワードが目を細める。
「声紋、偽装だ。だが……行動パターンは見えた」
カズヤが問う。
「どんなパターンだ?」
「犯人は夜だけ動く。光を避け、鏡を利用する。つまり自分の姿を、見たくない人間だ」
カズヤが息をのむ。
「罪悪感、か……」
その夜、カズヤとアイゼンは撮影所を後にする。
遠く、暗闇の中に立つ“第七の戦士”の影が、再び電子音を鳴らしていた。
赤い光の奥で、彼のヘルメット越しに涙のような光が一瞬、流れた。
登場人物相関まとめ
オクレンジャー
赤 / レッド(赤城勇也) 被害者
中心人物。子どもに人気だが自己顕示欲が強く、内部で嫉妬や確執が生まれる。
黄 / イエロー(佐藤悠太)
堅実だが目立たない。レッドとの確執があり、自己評価は低い。
緑 / グリーン(田中拓也)
技術はあるが地味。イエローと微妙な競争関係にある。
ピンク / ピンク(高橋さくら)
紅一点。美貌とアクション力で注目される。レッドとの不倫噂あり。
黒 / ブラック(吉田翔)
控えめでサポート役。メンバーの動向を把握。
青 / ブルー(小林亮)
戦闘力高めで冷静。事件発生時に状況分析を担当。
撮影スタッフ
美術監督:村上光一
セット管理・美術デザイン担当。事件前後の異変に気付く。
助監督:斎藤健
撮影進行責任者。スーツアクターたちの動きを監督。
監督:本田直樹
制作統括。事件発生時の現場指揮。
撮影班スタッフ
アクションシーン補助担当。
照明:田辺修一
年齢:35歳
職業:撮影所スタッフ、照明・小道具管理担当
性格・特徴:冷静沈着で表向きは穏やかだが、嫉妬心や独占欲が強く、感情を表に出さないタイプ。スーツアクターたちや撮影現場の動きを熟知しており、巧妙に証拠を隠したり操作したりできる。