第6話 第七のレンジャー戦士
夜の撮影所は、静寂の中に不穏な電子音を響かせていた。
ピッ……ピッ……ピッ……。
まるで心臓の鼓動のように規則的に鳴り続けるその音は、照明の落ちたスタジオB棟の奥から聞こえていた。
カズヤとアイゼンハワードが到着したのは午前0時を少し過ぎた頃。
スタッフも役者もすでに帰宅しており、警備員の姿もない。
だが暗闇の中、確かに“何かが動いていた”。
「……見えるか、アイゼン」
カズヤが小声で問いかける。
「熱反応あり。スタジオ内、中央のセット裏――動いてる。しかも……人の形だ」
アイゼンハワードが携帯端末を操作しながら、視線を上げた。
その瞬間、闇の中に浮かび上がる赤い光。
電子装置の起動音とともに、“それ”は立ち上がった。
赤い戦闘スーツ。
オクレンジャー・レッド。
だが、死んだはずの勇也が着ているはずはない。
「おい、誰だ!」
カズヤがライトを向ける。
その光の中、スーツのヘルメット越しに“誰か”がゆっくりとこちらを向いた。
金属的な呼吸音。
そして無言のまま走り出す。
「逃げたッ!」
二人は反射的に追いかける。
暗いスタジオの通路を抜け、照明器具や小道具を蹴散らしながら、“第七の戦士”は屋外へ飛び出した。
外は小雨。
夜風が冷たく吹き抜け、アスファルトを叩く足音が響く。
スーツの赤が、闇の中で異様なほど鮮やかだった。
「まるで、亡霊だな……」
アイゼンハワードがつぶやく。
「いや、人間だ。呼吸が乱れている心拍数、160を超えてる」
カズヤは目を細めた。
彼の頭の中では、複数の顔が浮かんでいた。
イエロー、ブルー、ピンク、ブラック……誰もが“勇也を憎んでいた理由”を持っていた。
逃走劇は撮影所の裏手にある倉庫へ続いた。
その中に設置された、次回撮影予定の“戦隊本部セット”。
まるで本物の秘密基地のような構造。
赤いスーツの影がその中に消える。
「袋の鼠だ」
アイゼンが銃を構える。
しかし、カズヤは制止した。
「撃つな。あいつは喋らせる価値がある」
倉庫内は薄暗く、照明の電源が切れていた。
カズヤが懐中電灯をかざすと、鏡のような壁面に赤い姿がいくつも映り込む。
どれが本物かわからない。
足音が左右に分かれ、錯覚を誘うように響く。
次の瞬間。背後からの風切り音。
カズヤが反射的に身をかがめると、鋭い金属の刃が頭上を掠めた。
“ナイフ”。
勇也が刺された凶器と同型。
「……お前か、村上光一」
カズヤの声が、静寂を破った。
沈黙。
そして、電子音が止まる。
ゆっくりと、赤いヘルメットが外される。
現れたのは美術監督・村上光一。
顔は汗に濡れ、恐怖と焦燥が入り混じった表情をしていた。
「勇也を……俺が、許せなかった……!」
彼の声は震えていた。
「スタッフを見下し、女を弄んで……それでもヒーロー面か!?
あんな奴に“正義”を演じる資格なんてない!」
カズヤは黙って見つめる。
だが、その瞳はただの復讐ではないことを見抜いていた。
「お前は誰かをかばっているな。ピンク隊員。高橋さくらだ」
村上の顔が強ばる。
カズヤは続けた。
「さくらが勇也の子を身ごもっていたこと、知っていたんだろう?
彼女を守るために、勇也を脅した……だが、揉み合いの末に――」
「違うッ!俺じゃない!俺は止めたんだ!」
村上の叫びが、倉庫に響き渡る。
アイゼンハワードが冷静に後ろへ回り込み、手錠を取り出した。
その瞬間――
モニターの影からもうひとつの赤い光が灯る。
もう一人の“第七の戦士”が立っていた。
「……二人、いたのか」
カズヤが息をのむ。
その赤は、村上のスーツよりも鮮やかに、まるで“血”のように輝いていた。
電子音が再び鳴り響く。
ピッ、ピッ、ピッ……。
“第七の戦士”は、無言のまま姿を消す。
残されたのは、雨に濡れた床と、赤く滲む足跡だけだった。
登場人物相関まとめ
オクレンジャー
赤 / レッド(赤城勇也) 被害者
中心人物。子どもに人気だが自己顕示欲が強く、内部で嫉妬や確執が生まれる。
黄 / イエロー(佐藤悠太)
堅実だが目立たない。レッドとの確執があり、自己評価は低い。
緑 / グリーン(田中拓也)
技術はあるが地味。イエローと微妙な競争関係にある。
ピンク / ピンク(高橋さくら)
紅一点。美貌とアクション力で注目される。レッドとの不倫噂あり。
黒 / ブラック(吉田翔)
控えめでサポート役。メンバーの動向を把握。
青 / ブルー(小林亮)
戦闘力高めで冷静。事件発生時に状況分析を担当。
撮影スタッフ
美術監督:村上光一
セット管理・美術デザイン担当。事件前後の異変に気付く。
助監督:斎藤健
撮影進行責任者。スーツアクターたちの動きを監督。
監督:本田直樹
制作統括。事件発生時の現場指揮。
撮影班スタッフ
アクションシーン補助担当。
事件関係者
謎の男
正体不明。事件に絡む怪しい存在。