第5話 沈黙の美術監督
夜の撮影所は、不気味なほど静かだった。
風が吹くたびに、鉄骨の足場が軋み、どこかでライトがカチリと鳴る。
カズヤは懐中電灯の光を足元に向け、ゆっくりと歩いた。
「……まるで、時間が止まってるな」
隣でアイゼンハワードが呟く。
その声には、微かな警戒が滲んでいた。
撮影セットの中央――そこが、赤城勇也の倒れていた場所だった。
床には、未だ拭いきれない血痕が残る。
「この位置……奇妙じゃないか?」
アイゼンが照明スタンドの脚元に目をやる。
「照明の角度が、通常の撮影位置よりも十五度ズレている。
まるで“影”を意図的に作るように調整されている」
カズヤは頷き、図面を広げた。
「美術監督・村上光一の配置だ。
つまり――この“光の死角”で、犯人は動いた可能性がある」
カズヤが赤城勇也役を、アイゼンがピンク役を演じ、事件の動きを再現していく。カメラの角度、照明の位置、セットの構造。
一つずつ、あの日の“絵”を再構築していく。
「勇也がこの位置に立ち……ピンクがここでポーズ。
イエローとグリーンは待機位置。
だが、問題は――このわずかな光の陰だ」
アイゼンがライトを操作し、光を再現すると、
背景のセットに、ナイフの影のような輪郭が浮かび上がった。
「……あの日の照明も、これと同じ角度だったんだな」
カズヤの瞳が鋭く光る。
「つまり、誰かがこの“影”を利用した。
殺害は――撮影の一部に“紛れ込ませた”ものだったんだ」
翌日。
美術監督・村上光一が警察の聴取室に呼ばれた。
彼は無言だった。
問いかけにも、まばたきすらしない。
「あなたが照明の配置を変えた理由を教えてください」
カズヤの声は穏やかだった。
村上は長い沈黙の後、低く答えた。
「……勇也に、頼まれたんだ」
「頼まれた?」
「“自分をもっとカッコよく見せたい”ってな。
レッドの影を長く、強く見せてくれって」
カズヤは視線を落とした。
「だが、その結果、彼は影に呑まれた」
村上の指が震える。
机の上に置かれた手の甲、そこには、うっすらと切り傷が走っていた。
アイゼンが目を細める。
「その傷……ナイフのものだな」
村上は何も言わない。
ただ、ゆっくりと懐から古びた金属片を取り出した。
それは事件当夜に使われたと思しきナイフの“柄”の一部だった。
「拾ったんだ。……翌朝、倉庫の裏で」
カズヤは眉をひそめる。
「犯人を見たのか?」
村上は顔を上げ、静かに首を横に振る。
「見てはいない。だが――“感じた”。
あの場に、俺たち以外の誰かがいた」
再現捜査の翌夜。
撮影所の門をくぐる二つの影。
ひとりはカズヤ。もうひとりは、無言のアイゼン。
風が吹き抜けると、奥のステージに“赤と黒のスーツ”が吊るされていた。
その下に、見慣れぬマークが描かれている。
六人の紋章の隣に、もうひとつ――“第七の紋章”。
「……第七の戦士、だと?」
アイゼンの声が低く響く。
壁にかすかに映る人影。
それはまるで、かつての勇也――レッドのようでもあり、まったく別の“誰か”のようでもあった。
カズヤが拳を握る。
「まだ終わっていない。
この撮影所には、もう一人“脚本にない存在”が潜んでいる」
ライトがちらつく。
誰もいないはずのステージの奥で
第七の戦士が、静かにヘルメットを被った。
登場人物相関まとめ
オクレンジャー
赤 / レッド(赤城勇也) 被害者
中心人物。子どもに人気だが自己顕示欲が強く、内部で嫉妬や確執が生まれる。
黄 / イエロー(佐藤悠太)
堅実だが目立たない。レッドとの確執があり、自己評価は低い。
緑 / グリーン(田中拓也)
技術はあるが地味。イエローと微妙な競争関係にある。
ピンク / ピンク(高橋さくら)
紅一点。美貌とアクション力で注目される。レッドとの不倫噂あり。
黒 / ブラック(吉田翔)
控えめでサポート役。メンバーの動向を把握。
青 / ブルー(小林亮)
戦闘力高めで冷静。事件発生時に状況分析を担当。
撮影スタッフ
美術監督:村上光一
セット管理・美術デザイン担当。事件前後の異変に気付く。
助監督:斎藤健
撮影進行責任者。スーツアクターたちの動きを監督。
監督:本田直樹
制作統括。事件発生時の現場指揮。
撮影班スタッフ
アクションシーン補助担当。
事件関係者・謎の存在
マルゴ
目撃者・関係者。事件解明に協力するが秘密あり。
謎の男
正体不明。事件に絡む怪しい存在。