第3話 スタッフの秘密
スタジオの照明がひとつ、またひとつと落とされ、薄闇が支配する。
撮影所の片隅には、いまだ血の跡が乾ききらぬ床。
そこに立つカズヤとアイゼンハワードの視線は、現場の全てを記憶するかのように鋭く動いた。
「不自然だな」
カズヤが呟いた。
「この位置にプロップの短剣があるのはおかしい。通常ならアクションリハ用の棚に戻されるはずだ」
美術監督・村上光一。
撮影セットの装飾を一手に担う職人肌の男だが、事件直前、勇也と激しく口論していたという目撃証言が複数あった。
事情聴取:美術監督・村上光一
「確かに言い争いはした。だが、殺す気なんて毛頭ない」
村上は煙草を震える指で取り出し、火をつける。
「勇也はな、勝手に“演出”を変えたんだ。俺のセットを壊すようなアクションをな」
カズヤが目を細めた。
「壊しただけで、そこまで怒る理由になるんですか?」
「簡単に言うなよ……!」
村上の声が震えた。
「俺は20年、この世界でやってきたんだ。光の角度一つ、砂の粒ひとつで“ヒーローの世界”を作ってきた。それを、あの若造は“リアルじゃない”と笑いやがったんだ」
その瞳には、長年の職人気質が滲んでいた。
だが、カズヤは気付いていた。
村上の指先、人差し指の爪に、乾いた赤黒いシミがあった。
助監督・斎藤健の証言
「美術監督が怒鳴ってるのは見ました。けど……実際にナイフを持ってたのは別のスタッフだったかもしれません」
「別のスタッフ?」
アイゼンハワードが低い声で問う。
「撮影小道具担当の若い子が、“小道具の位置が変わってた”って言ってたんです。
誰かがリハ後に勝手に動かしたって……。ただ、その夜、倉庫の防犯カメラはなぜかオフになっていました」
「偶然にしては出来すぎているな」
カズヤはメモを閉じ、現場へと戻った。
現場検証
勇也が倒れていた場所のすぐ横、瓦礫の影に
新品の小道具ナイフと、血に濡れた同型の刃が二本。
「二本?」とアイゼンハワード。
「一本は撮影用の模造、もう一本は……本物か」
「つまり、誰かが“本物と偽物を入れ替えた”」
カズヤが呟く。
「そして、それを扱えるのは、美術か助監督、あるいは撮影小道具担当の人間……」
そのとき、スタッフの一人が青ざめた顔で走り寄ってきた。
「警部! 見つかりました! 倉庫の裏口の鍵……折れてました!」
カズヤとアイゼンは互いに目を合わせた。
誰かが、計画的に出入りしていた。
だが、その“誰か”は今も撮影所にいる。
そして、表情を変えず、次の撮影スケジュールを語っていた。
光と影の境界で、
「ヒーローを演じる人間」と「人を殺したかもしれない人間」が交錯する。
カズヤの胸中に、静かな推理の炎が灯る。
登場人物相関まとめ
オクレンジャー
赤 / レッド(赤城勇也) 被害者
中心人物。子どもに人気だが自己顕示欲が強く、内部で嫉妬や確執が生まれる。
黄 / イエロー(佐藤悠太)
堅実だが目立たない。レッドとの確執があり、自己評価は低い。
緑 / グリーン(田中拓也)
技術はあるが地味。イエローと微妙な競争関係にある。
ピンク / ピンク(高橋さくら)
紅一点。美貌とアクション力で注目される。レッドとの不倫噂あり。
黒 / ブラック(吉田翔)
控えめでサポート役。メンバーの動向を把握。
青 / ブルー(小林亮)
戦闘力高めで冷静。事件発生時に状況分析を担当。
撮影スタッフ
美術監督:村上光一
セット管理・美術デザイン担当。事件前後の異変に気付く。
助監督:斎藤健
撮影進行責任者。スーツアクターたちの動きを監督。
監督:本田直樹
制作統括。事件発生時の現場指揮。
撮影班スタッフ
アクションシーン補助担当。
事件関係者
謎の男
正体不明。事件に絡む怪しい存在。