第1話 正義が敗れた撮影所
雨の匂いが湿った空気に混じる昼下がり、オクレンジャーの撮影所はいつも通りの喧騒に包まれていた。
赤城勇也のレッド隊員は次のアクションシーンの準備に余念がなかった。助監督の斎藤が声を張り上げ、スタッフたちは小道具やカメラを急ぎ整える。
「はい、カット! 次はレッドのジャンプから!」
勇也は力強く走り、跳躍して敵を蹴散らす決めポーズを決めた。
スタッフの拍手と歓声が現場に響く。今日も順調……と思われたその瞬間、助監督が声をかける。
「はい、カット! 休憩に入ります」
スーツアクターたちはそれぞれ水を飲み、タオルで汗を拭いた。だが、表面上の笑顔の裏では、心の奥に渦巻く感情があった。
イエローの佐藤悠太は、レッドの目立つ動きや人気を内心で妬んでいた。グリーンの田中拓也も、同じく自分のスキルが認められないことに苛立ち、イエローと微妙なライバル心を抱く。
ピンクの高橋さくらは、紅一点として注目される日々に疲れつつも、今や話題になっているのは勇也の不倫報道だった。タブロイド紙でスクープされたその記事は、隊内の空気を一層重くしていた。
「……また、あの話か」
ピンクは目を伏せ、うつむきながら小さなため息をつく。
ブラックの吉田翔は、控えめに観察を続ける。彼の目には、チームの微妙な人間関係がすべて映っていた。誰が嫉妬し、誰が腹に秘めた怒りを抱えているのか、すべて把握していた。
「……今日もまた、面倒な一日になりそうだな」
心の中でつぶやく吉田の視線の先には、レッドが無邪気に笑いながら、次のアクションを確認している姿があった。
この休憩時間、表面上は穏やかでも、互いの嫉妬や確執、不倫の噂が影のようにチームを覆っていた。そして、撮影所という閉鎖空間の中で、誰もが知らぬうちに、次に起こる悲劇への布石を踏んでいるようだった。
休憩時間の微妙な空気が張り詰めたまま、撮影所のセットに再び動きが戻った。スタッフたちは水を飲み、タオルで汗を拭き、次のシーンの準備を始めていた。
しかし、その静けさを突き破るように、悲劇は突如として現れた。
赤城勇也であるオクレンジャーのレッド隊員が胸に鋭い痛みを感じ、崩れ落ちた。
「きゃっ……!」
ピンクの高橋さくらの悲鳴が響く。
スタッフたちが駆け寄る。助監督の斎藤が慌てて駆け寄り、必死に呼びかける。
「勇也! しっかりしろ!」
だが、勇也の体は冷たく、動きは止まったままだった。
現場は瞬く間に騒然となる。ライトの反射で影が揺れ、倒れた勇也の周りに散らばる小道具は、まるで異様な静止画のようだった。スタッフの間に、恐怖と混乱が渦巻く。
その混乱の中で、スーツアクターたちの視線は互いに絡み合った。
イエローの佐藤悠太は、動揺を装いながらも心の奥で思った。
「……誰か、わざとやったのか?」
グリーンの田中拓也も同じ疑念を抱く。
「こんなこと、偶然の事故なわけがない……」
ピンクの高橋さくらは、倒れた勇也を見つめ、恐怖と罪悪感が入り混じる。
「……勇也……どうして……」
不倫報道で彼の存在がチーム内で複雑化していたことが、胸の奥で重くのしかかる。
ブラックの吉田翔は、無言で全体を見渡す。冷静に状況を把握する彼の目には、誰が緊張し、誰が疑心暗鬼に陥っているかがすべて映っていた。
「……撮影所が、地獄みたいだ……」
小さく呟く声が、現場の重苦しさをさらに際立たせた。
やがて、遠くからサイレンが響き、警察が到着する。現場は封鎖され、スタッフやスーツアクターたちは警察官に囲まれ、事件は瞬く間に公となった。
記者や関係者が駆けつけ、タブロイド紙やSNSを通じて、「オクレンジャー・レッド、撮影所で死亡」と報道される。
現場の空気は、恐怖、混乱、嫉妬、疑心暗鬼すべてが入り混じり、静まることはなかった。
テレビの中で子どもたちに人気のヒーローは、現実の撮影所で無惨に倒れ、残された者たちは互いを疑いながら、その場に立ち尽くしていた。
登場人物相関まとめ
オクレンジャー
赤 / レッド(赤城勇也) 被害者
中心人物。子どもに人気だが自己顕示欲が強く、内部で嫉妬や確執が生まれる。
黄 / イエロー(佐藤悠太)
堅実だが目立たない。レッドとの確執があり、自己評価は低い。
緑 / グリーン(田中拓也)
技術はあるが地味。イエローと微妙な競争関係にある。
ピンク / ピンク(高橋さくら)
紅一点。美貌とアクション力で注目される。レッドとの不倫噂あり。
黒 / ブラック(吉田翔)
控えめでサポート役。メンバーの動向を把握。
青 / ブルー(小林亮)
戦闘力高めで冷静。事件発生時に状況分析を担当。
撮影スタッフ
美術監督:村上光一
セット管理・美術デザイン担当。事件前後の異変に気付く。
助監督:斎藤健
撮影進行責任者。スーツアクターたちの動きを監督。
監督:本田直樹
制作統括。事件発生時の現場指揮。
撮影班スタッフ
アクションシーン補助担当。
事件関係者
謎の男
正体不明。事件に絡む怪しい存在。