終章 村に朝が戻る
霧の谷に朝日が差し込む。
嵐の夜を耐え抜いた灯籠村は、静かに呼吸を取り戻していた。
焼け落ちた呪術寺の跡地からは、焦げた木と朱色の破片がまだ煙を上げている。
久遠祐真は、警察の手によって連行されていく。
その顔には、かつての威圧は消え、どこか諦観の色が混ざっていた。
カズヤは石畳に残る破片を踏みしめ、重い吐息をつく。
「呪い……とは、人の罪が形になったものだ。怨念、恐怖、欲望……それらが一つに凝縮されたもの」
アイゼンハワードは、遠くで煙を上げる寺跡を見やり、肩をすくめた。
「三つ首の灯篭は壊れ寺は焼け落ちた。封じるべきものは封じた。後は影がまた動くかもしれんがな。」
しかしその目は、どこか警戒を解かぬまま、遠い谷の影を見据えていた。
灰田カンナは崩れた祭壇の前に立ち、震える手で胸を押さえる。
「姉さん……ありがとう……」
涙が頬を伝い、心の奥で、封じられていた姉の魂が救われたことを確かに感じ取った。
白石薫は、密かに灯籠の破片を懐に忍ばせる。
「これは……研究材料として……まだ、利用できるかもしれない」
その背後には、まだ完全には消えぬ赤黒い光の残滓が、霧の中で微かに揺れている。
灯籠村は静寂を取り戻したように見える。
だが、谷の奥深く、影の中で微かな呻きが聞こえる。
封じられた魂の断片は、再び呼び声を放ち、次なる異変を予感させていた。
カズヤは遠くの森を見つめ、拳を軽く握る。
「……また、何かが起きるんだろうな」
アイゼンハワードは薄く笑みを浮かべた。
「心配するな、我々がいれば、死者も呪いも裁く」
谷に朝の光が降り注ぐ。
しかし、その光の向こうには、まだ見えぬ影と、終わらぬ因縁が息を潜めていた。
静かな村に、平穏な朝が戻った。
だがその頃、白石薫のポケットの中で、三つ首灯籠の破片が微かに脈動を始めていた。
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:三つ首灯籠の呪術寺 宗教家殺人事件』
ー完ー