第2話 魔導工場都市デスパイア ~そして勇者銀行へ~
蒸気が立ちこめる赤銅色の街。
勇者アルベルトたちが訪れた魔導工場都市は、まさに“文明の胃袋”と呼ぶにふさわしい場所だった。
空を見上げれば、空中に浮かぶ巨大な歯車がゆっくりと回転している。そこから降ろされた幾本もの鎖とパイプは、地上の建造物に絡まり、まるで金属の樹木のような異様な景観を作り上げていた。
「うおお……なんだこの都市……。煙突だらけじゃねぇか!」
リスクは口を開けて見上げる。
魔導炉の煙突からは白煙とわずかに青白い魔力の光が噴き上がり、空に薄く幻想的な模様を描いている。
魔導工場都市
魔力と機械が融合した世界でも随の技術都市は、今日も白煙と振動の中で動き続けていた。
「ようこそ、魔導列車の心臓部へ!」
高熱と魔力の渦巻く構内。リスクの目は、完全に少年のように輝いていた。
「す、すげぇ……っ! こいつが魔導炉か? 列車一台ずつに魔導石が埋め込まれてんのか!?」
工場の係員が頷く。
「ええ。このデスパイアでは、魔導列車だけでなく、輸送用の飛行艇や浮遊トロッコ、さらには都市間高速鉄道の開発も進めております」
「陸に、空に、鉄路に……物流の血管がこの都市で繋がってるってわけか……」
リスクは天井を見上げながらつぶやいた。巨大なクレーンが魔導エンジンを運んでいく。整然とした作業音の中にも、都市の「鼓動」が感じられる。
「技術の力ってすごいわね……。でも、この列車、ただ走らせるだけじゃダメでしょう?」
シスターマリアがふと問いかける。
「そうだな。物を運ぶには、道がいる。けど、それ以上に……“金の流れ”が必要だ」
と、リスク。
アルベルトが怪訝な顔をする。
「金? 物資はあっても、金がなきゃ意味がないってことか?」
リスクは力強く頷く。
「物流ってのは血液みたいなもんだ。だけど、血液だけじゃ人間は生きられない。心臓みたいに、資本を送り出す“金融の器官”が要る」
彼は工場の片隅にしゃがみ込み、スケッチ帳を広げながら語り出した。
「俺なりに考えた。列車が走り、飛行艇が飛ぶ。貿易が盛んになる。でも、どこもかしこも“信用”を担う場所がねぇ。だから作るんだよ。銀行を!」
「また急な話ですね……」
マリアが眉をひそめるが、リスクは真剣だった。
「ただの商売じゃねぇ。これは、この世界に必要なインフラだ。“勇者銀行”って名前にしよう。俺たちの旅と、信頼と、未来を象徴する名前だ」
「勇者銀行……!」
アルベルトが呟いた。
「俺たちが信用を担うってことか。なら、悪くない」
リスクは立ち上がり、工場の鉄骨を指差した。
「“天才とは、1%のひらめきと99%の努力である”ってエジソンソンも言ってた。今、俺はひらめいた。あとはやるだけだ!」
「先に魔王を討伐するのを忘れないでくださいね……。」
マリアが肩をすくめて笑う。
工場の天井にある透明な窓から、魔導列車がゆっくりと発車していくのが見えた。蒸気と魔力の残響が、3人の胸を高鳴らせる。
こうして勇者銀行の夢は、魔導の鼓動とともに静かに動き出したのだった。