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【45万2千PV突破 ! 全話 完結】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:三つ首灯籠の呪術寺 宗教家殺人事件』
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第5話 血文字の経典

病院の白い蛍光灯が、静寂の中に不気味な影を作っていた。

灰田カンナの唇がわずかに動く。

その瞬間、カズヤは息をのんだ。


「……三つ首が……開く……」


掠れた声とともに、彼女の指が震えながら空を掴もうとする。

点滴の針がかすかに揺れ、モニターが一瞬だけ異常な波形を描いた。

医師が駆け寄るが、カンナはそれ以上の言葉を残さず、また深い眠りへと沈んでいった。


その夜、寺の奥――かつて霊天会が「魂還りの儀」を行っていたという古堂の床下から、

一冊の経典が発見された。


灯りを落とした本堂で、カズヤとアイゼンハワードはその経典を開く。

乾いた紙の匂い。

経の間にこびりついた黒ずんだ赤は、まるで新しい血のように湿って見えた。


「……これは、血で書かれていますね」

アイゼンハワードの瞳が、淡い紫に光った。

彼の魔族としての感覚が、経典の文字ひとつひとつに“怨念の震え”を感じ取っている。


ページの中央には、異様な文が刻まれていた。


「三つの魂を封ぜよ、再び開くとき禍起こる」


その文の下に、まるで血で塗りつぶすように描かれた“灯籠”の絵。

三つの首を持つ異形の形が、まるで見ている者の視線を吸い込むようだった。


「封ぜよ、というのは――儀式の完遂を意味する。だが“再び開く”とは……?」

カズヤは呟き、冷や汗をぬぐう。


そのとき、寺の境内で警察の懐中電灯が揺れた。

新藤警部補が険しい顔でやって来る。


「霊天会の残党が動いている。村崎宗吾の遺体にも同じ印があった。

これは宗教的な儀式殺人だ。そう考えるのが自然だろう」


だが、カズヤは首を横に振った。

「……警部補、違うと思います。この村そのものが、何かを“呼び起こそうとしている”。

まるで、誰かが封印を壊すために――事件を繰り返しているように」


アイゼンハワードが静かに経典を閉じた。

彼の指先から、かすかに黒い煙のような気配が立ち上る。


「カズヤ、封印を壊そうとしている“者”は、もうこの村にいます。

しかも、それは人間の手ではありません」


その言葉に、冷たい風が本堂を吹き抜けた。

外では、三つ首灯籠の二つ目の首が再び赤く、妖しく光り始めていた。


やがて夜空の奥から、低く不気味な唄声が響く。

それは護符のようでもあり、祈りのようでもあり、

“封印を破る者”への呼び声のようにも聞こえた。


村の関係者

御影 知念みかげ・ちねん

呪術寺「三首庵」の現住職。かつて新興宗教団体「霊天会」の教祖として全国から信者を集めたが、数年前に活動を停止。事件の第一発見者。村人や灯籠の伝承に深い知識を持つ。


御影 沙月みかげ・さつき

知念の娘で、村の図書館司書。穏やかだが、父の過去に複雑な感情を抱いている。事件の夜、寺の本堂近くで「三つ首灯籠が光った」と証言。


村崎 宗吾むらさき・そうご

村の古美術商。第2の犠牲者。寺の宝物庫から“灯籠の首飾り”を持ち出した直後に変死。

彼の死によって、灯籠の二つ目の首が赤く染まった。白石いわく、「彼は封印を“開けた”側の人間」。


警察関係者

山岡 俊介やまおか・しゅんすけ

村の駐在所勤務の巡査。都会から左遷されてきたが、カズヤのファンで協力的。臆病で、夜の寺には一人で入れない。


新藤 しんどう・れい

県警捜査一課の警部補。理屈屋でカズヤとしばしば対立するが、正義感が強い。アイゼンハワードの存在を「オカルト的虚構」と決めつける。


白石 しらいし・かおる

民俗学者。村に古くから伝わる“灯籠呪法”の研究で滞在中。事件後、寺に残された奇妙な護符に強い関心を示す。知念とは旧知の仲。


灰田 カンナ(はいだ・かんな)

ジャーナリスト。失踪した姉がかつて「霊天会」に入信していた。事件の真相を追うため、村に潜入取材していた。感情的。


久遠 祐真くおん・ゆうま

謎の僧侶風の男。事件現場に現れては意味深な言葉を残す。村人には「灯籠に封じられし三つの魂を解く者」と噂される。正体不明。


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