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【45万2千PV突破 ! 全話 完結】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:三つ首灯籠の呪術寺 宗教家殺人事件』
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第2話 霊天会の亡霊

霧が晴れぬまま、灯籠村の朝が訪れた。

赤く染まった三首院の境内には、まだ血の匂いが漂っている。

警察の規制線が張られ、村人たちは遠巻きに囁き合っていた。


「……三つの首、ひとつの魂。やはり“あの夜”が戻ったんだ……」

「呪いが再び始まる……」


そのざわめきの中、カズヤは昨夜の光景を思い出していた。

灯籠の赤、御影知念の首、そして――壁に浮かんだ血文字。


アイゼンハワードは境内の土を拾い上げ、霊的な残留思念を確かめていた。

「これは……儀式の痕跡だな。生きた信仰が、いまだにこの地で蠢いている」


新藤警部補が苛立った声で言う。

「儀式だと? 馬鹿な。これは明らかに人為的な殺人事件だ」

「いや、警部補殿。霊と人間の境界は、時に薄氷のように曖昧だ」

アイゼンの瞳が霧の奥を見据える。


そこへ、ゆっくりと歩いてくる一人の女性――御影沙月。

昨夜の騒ぎの中で姿を見せなかった、亡き住職・知念の娘だ。


彼女は静かに本堂の前に立ち、父の亡骸を見つめた。

「……父は、あの灯籠に囚われていたのね」

声は震えていたが、瞳には恐れよりも確信が宿っていた。


カズヤが近づく。

「御影さん……何かご存知なんですか?」


彼女はゆっくりと頷き、懐から古びた手帳を取り出した。

「これは父の遺した記録です。“霊天会”という名が何度も書かれていました」


その言葉に、周囲の村人たちがざわめく。

「霊天会だって……!? あの禁忌の宗教か!」

「やめろ、あの名を口にするな……!」


新藤警部補が眉をひそめた。

「霊天会? そんな団体、聞いたことがない」


「存在しなかったことにされた宗教ですよ」

カズヤが静かに答えた。

「昭和の終わり頃に、この村を中心に活動していた。信者は“魂の統一”を掲げ、三つの灯籠を神の象徴とした」


アイゼンが手帳を受け取り、ページをめくる。そこには、異様な儀式の図が描かれていた。

三つの首を並べ、灯籠の光で魂を一つに還す。

「……これだ。『三つの首、ひとつの魂』――血文字の意味は、この教義に由来する」


沙月はうつむきながら呟いた。

「父は、かつて霊天会の導師だった。でも……教団が崩壊したあと、すべてを封じて寺を守ってきたの」


カズヤは手帳を見つめながら息を呑む。

「じゃあ、父親は“教団の過去”に殺されたのか……?」


そのとき、アイゼンが境内の灯籠に手をかざした。

「……来るぞ。思念が動いている」


赤い光が再び灯り、霧の中に無数の影が浮かび上がる。

人影――いや、信者たちの残像だ。

彼らは無言のまま、手を合わせ、首のない導師の方へと歩み寄っていく。


「……見えるか、カズヤ」

「う、うん……これが……霊天会の……亡霊……?」


影の群れはやがて灯籠の下で消え、ただひとつの声だけが残った。

「我らは、魂を一つに……」


静寂。

霧が再び谷を覆い、光が消える。


沙月は膝をつき、泣きながら言った。

「……父は、この村を守ろうとしていたのに。霊天会の呪いを……止めようとして……」


アイゼンは彼女の肩に手を置き、低く囁いた。

「真実はまだ深いところに眠っている。この灯籠の下に、もうひとつの“儀式跡”があるはずだ」


カズヤは拳を握りしめ、決意を固めた。

「霊天会の真相を……必ず暴く。父親の死を無駄にしないためにも」


そのとき、遠くの山の上で、また赤い光が三度、ゆらめいた。

まるで次の儀式の予告のように。


霧が谷を飲み込み、風が呻く。

三首院の鐘が、誰も触れていないのに鳴り響いた。


夜が来る。

“亡霊たち”の時間が、再び始まろうとしていた。


村の関係者

御影 知念みかげ・ちねん

呪術寺「三首庵」の現住職。かつて新興宗教団体「霊天会」の教祖として全国から信者を集めたが、数年前に活動を停止。事件の第一発見者。村人や灯籠の伝承に深い知識を持つ。


御影 沙月みかげ・さつき

知念の娘で、村の図書館司書。穏やかだが、父の過去に複雑な感情を抱いている。事件の夜、寺の本堂近くで「三つ首灯籠が光った」と証言。


村崎 宗吾むらさき・そうご

村の古美術商。第2の犠牲者。寺の宝物庫から密かに儀式具を持ち出し、何かを探していた形跡がある。

死因は窒息と心停止。死の直前、灯籠の首飾りを抱えていた。

彼の死をきっかけに、灯籠の“二つ目の首”が赤く染まる。


警察関係者

山岡 俊介やまおか・しゅんすけ

村の駐在所勤務の巡査。都会から左遷されてきたが、カズヤのファンで協力的。臆病で、夜の寺には一人で入れない。


新藤 しんどう・れい

県警捜査一課の警部補。理屈屋でカズヤとしばしば対立するが、正義感が強い。アイゼンハワードの存在を「オカルト的虚構」と決めつける。


白石 しらいし・かおる

民俗学者。村に古くから伝わる“灯籠呪法”の研究で滞在中。事件後、寺に残された奇妙な護符に強い関心を示す。知念とは旧知の仲。


灰田 カンナ(はいだ・かんな)

ジャーナリスト。失踪した姉がかつて「霊天会」に入信していた。事件の真相を追うため、村に潜入取材していた。感情的。


久遠 祐真くおん・ゆうま

謎の僧侶風の男。事件現場に現れては意味深な言葉を残す。村人には「灯籠に封じられし三つの魂を解く者」と噂される。正体不明。


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