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【45万PV突破 ! 全話 完結】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:三つ首灯籠の呪術寺 宗教家殺人事件』
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第1話 呪術寺の夜、光る三つ首灯籠

挿絵(By みてみん)

霧が谷間を覆う夜、灯籠村の山道をカズヤは祖父である魔族、アイゼンハワードと共に歩いていた。


「……やはり、この村は……何かが違う」


カズヤは手元の懐中電灯を握りしめ、霧の奥に光る赤い灯りを見つめる。


「落ち着け、カズヤ。霧の中で光るものは、往々にして過去の残滓だ」

アイゼンは紳士的な口調でそう言いながらも、その目は鋭く霧の奥を見据えている。

「魔界ではこういう残留思念を観察するのは日常茶飯事だが……人間界での事件は久しぶりだな」


谷の奥に建つ古寺――三首院さんしゅいん

苔むした瓦屋根とひび割れた漆喰が長い年月を物語っていた。

夜になると、境内に立つ“三つ首灯籠”が赤く揺れ、霧の中でまるで無数の眼が村を見下ろすように輝いている。


「灯籠の赤……これが、あの伝承の……」

カズヤの声は震えていた。村人の祖父母たちが囁く、生贄の習わし。江戸の頃から続く呪術の伝承――それが、今まさに息を吹き返していた。


「首を捧げる者、魂を守る者……」

アイゼンの声が低く響く。

谷全体に、古い呪いの気配が染み込むように広がっていた。


夜風に混じって、微かな囁きが聞こえる。

「……魂は、まだ閉ざされてはいない……」


そのとき――

三首院の本堂の灯がふっと揺れた。



一方そのころ、御影知念みかげ・ちねん住職は、山門の奥で経を唱えていた。

年老いた声が木霊し、灯籠の灯が彼の足元を淡く照らす。


「……また、灯りが揺れおる……」

夜風がないのに、灯籠は赤く脈打つように光っていた。

住職は眉をひそめ、杖を突いてゆっくりと近づく。


その灯籠は、三つの首を持つように作られた奇妙な形状――

古来より「魂を導く灯」と呼ばれてきた寺の守護具だった。

しかし、今夜は何かが違う。光は温かくなく、血のように濃く、まるで呼吸しているように見えた。


「……誰か、そこにおるのか?」

知念の声が霧に吸い込まれる。

返事はない。代わりに、灯籠の足元で“カラン”と何かが転がった。


それは、小さな鈴のような音だった。

見下ろした瞬間、彼の足元に赤黒い滴が落ちる。


「……血?」

知念の喉が鳴る。

次の瞬間、霧の奥の本堂から、人の気配がふっと立ち上がった。

鈴の音、風の音、経の残響……すべてが消える。


灯籠が三度、赤く脈を打った。


「……三つの首……ひとつの魂……」

低い声が背後から囁いた。

知念は振り向く――しかし誰もいない。

そして再び灯籠を見ると、その根元に――何かが、置かれていた。


首だった。

それはまるで儀式の中心に捧げられた供物のように、灯籠の赤い光に包まれている。

鮮血が石畳を伝い、まるで生きているようにじわじわと広がっていく。


知念は息を呑み、杖を取り落とした。

「……だ、誰か――!」


叫びは霧に飲まれた。

その瞬間、灯籠が爆ぜるように強く光を放ち、三首の影が本堂の壁に広がる。

それはまるで、生贄を選ぶ神々の輪郭のように揺れた。



深夜。

警笛が谷を裂いた。

「……来たようだな」

アイゼンハワードは静かに呟き、懐中電灯を掲げる。

谷をゆっくりと下りてくるパトカーの光が、霧の中でねじれた。


山岡俊介巡査が駆け上がり、境内を見て立ち尽くす。

「こ、これは……知念さんが……!」

彼の足元には、青ざめた住職――御影知念が膝をついて座り込んでいた。

両手を震わせ、声にならない叫びを繰り返している。


「……灯籠が……光って……奴らが、戻ってきたんじゃ……!」

その目は、狂気と恐怖に満ちていた。


本堂の奥には、灯籠の赤い光に照らされた首のない遺体が転がっていた。

そして床には、血で書かれた文字。


ー 三つの首、ひとつの魂。ー




警察がテープを張り始める中、村人たちは恐怖に囁き合う。

「……また“灯籠の夜”が来た……」

「いけにえが選ばれたんだ……」


新藤礼警部補が現場を見渡し、唇をかすかに震わせた。

「……呪いでも宗教でもいい。だがこれは――殺人だ。」


霧の中で、アイゼンは静かに目を閉じた。

「いいや、警部。これは“始まり”だ。封じられていた魂が、再び目を覚ました……」


カズヤは懐中電灯を強く握りしめた。

「じいちゃん……これ、ただの事件じゃないんだね」


「そうだ。カズヤ――これは、霊天会の残響だ。

十年前に終わったはずの“祈り”が、まだこの村で続いている」


霧が深く流れ、灯籠が再び三度、ゆらりと赤く揺れた。

村の夜は、もう後戻りできなかった。


そして翌朝、カズヤは村人の証言と古文書をもとに、

“霊天会”という名の過去を調べ始める。


その名が、再び恐怖の中心となることを、

まだ誰も知らなかった。


村の関係者

御影 知念みかげ・ちねん

呪術寺「三首庵」の現住職。かつて新興宗教団体「霊天会」の教祖として全国から信者を集めたが、数年前に活動を停止。事件の第一発見者。村人や灯籠の伝承に深い知識を持つ。


御影 沙月みかげ・さつき

知念の娘で、村の図書館司書。穏やかだが、父の過去に複雑な感情を抱いている。事件の夜、寺の本堂近くで「三つ首灯籠が光った」と証言。


村崎 宗吾むらさき・そうご

地元の古美術商。寺の宝物管理を任されている。笑顔の裏で、知念住職と金銭トラブルを抱えていたという噂もある。


警察関係者

山岡 俊介やまおか・しゅんすけ

村の駐在所勤務の巡査。都会から左遷されてきたが、カズヤのファンで協力的。臆病で、夜の寺には一人で入れない。


新藤 しんどう・れい

県警捜査一課の警部補。理屈屋でカズヤとしばしば対立するが、正義感が強い。アイゼンハワードの存在を「オカルト的虚構」と決めつける。


白石 しらいし・かおる

民俗学者。村に古くから伝わる“灯籠呪法”の研究で滞在中。事件後、寺に残された奇妙な護符に強い関心を示す。知念とは旧知の仲。


灰田 カンナ(はいだ・かんな)

ジャーナリスト。失踪した姉がかつて「霊天会」に入信していた。事件の真相を追うため、村に潜入取材していた。感情的。


久遠 祐真くおん・ゆうま

謎の僧侶風の男。事件現場に現れては意味深な言葉を残す。村人には「灯籠に封じられし三つの魂を解く者」と噂される。正体不明。


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