終章 レオンの魂の帰還
夜明け前、白銀アリーナの照明がようやく落とされた。
事件の終焉を告げるように、風が血の匂いをさらっていく。
警察の車両が列をなし、青い光がゆらめく。
その中央で、東条カレンは静かに手錠をかけられていた。
記者が押し寄せる中、彼女は一言だけつぶやいた。
「彼は、真実を追いすぎたの。だから私は、“舞台”を作ったのよ――事故死という名の、沈黙の幕を。」
その瞳には涙ではなく、深い後悔だけが宿っていた。
氷室隼人はすでに息絶え、八代宗一郎は失脚。
そして、真の罪がようやく暴かれた。
カズヤが小さく呟く。
「……これが、“正義の代償”か。」
アイゼンはその場を離れ、静かに夜の街を歩き出した。
胸の奥では、まだ微かな温もりが灯っている。
如月レオンの魂の残響。
数日後。
墓地の丘の上。
朝の光が差し込む中、アイゼンは一人、白い墓標の前に立っていた。
そこには「如月レオン ― 真の騎士ここに眠る」と刻まれている。
アイゼンは静かに帽子を取った。
風が彼の髪を揺らし、どこか懐かしい声が耳に届く。
『……ありがとう、アイゼン。もう大丈夫だ。俺は、ようやく自分を許せた。』
「……お前の剣は、まだ折れちゃいないさ。」
アイゼンはそう言って、懐から折れたサーベルの欠片を取り出した。
光の中でそれは淡く輝き、まるでまだ命を宿しているかのようだった。
『騎士道とは、勝つことじゃない。
偽りを斬り、己を貫くことだ。そうだろう?』
アイゼンは微笑み、墓前に剣の欠片をそっと置いた。
「安らかに眠れ、如月。お前の理想は、俺が受け継ぐ。」
風が吹き、花弁が舞う。
それはまるで、レオンの魂が空へ帰っていくかのようだった。
そして、遠くで鐘が鳴る。
夜明けの音。
新しい時代の始まりを告げる音だった。
アイゼンは背を向け、ゆっくりと歩き出した。
その背中には、もうひとつの影が寄り添う――
“真の騎士”の影が。
「剣は魂を映す鏡……折れたサーベルが、真実を貫いたのだ。」
空へ伸びる光が、まるで祝福のように二人を包み込む。
やがて風だけが残り、静寂の中、レオンの名だけが優しく響いた。
『 カズヤと魔族のおっさんの事件簿:騎士道 フェンシング王者殺人事件』
ー完ー