第1話 天才発明家との出会い
夕暮れの魔法国家ザルツブルクは、紫と青の光が入り混じる幻想的な都市だった。空中に浮かぶ無数の魔導灯が道を照らし、行き交う人々のローブには、刻まれた魔法紋様が淡く光っている。
「ここが……ザルツブルク。魔法と科学が共存する、知の都だな」
アルベルトが感嘆の声を漏らす。シスターマリアはその隣で、街並みに目を細めていた。
「空に浮かぶ本棚、動く階段、空飛ぶ宅配魔導機械……魔導技術の粋、ってやつね」
「すごい……すごいぞ……ッ!」
一人、目を輝かせているのは村人リスクだった。彼は商人顔負けの目つきで、通りを歩く魔道具屋や、煙を上げる小型飛行装置に視線を走らせる。彼の目は完全に商人のそれ。街中を駆け巡る魔道具や空飛ぶ荷車に、ビジネスチャンスの香りを嗅ぎ取っていた。
「流通の要は運搬手段……つまり、空を自由に移動できれば、商圏が一気に広がる!これは……“空の独占市場”ってやつだぞ……!」
そんなとき、遠くで【ドガーン!!】という大きな爆発音が響いた。
「……爆発音? 何かの事故か?」
「行ってみましょう。魔導暴走の可能性もあります」
マリアが言い、三人は音のする方角へと走り出した。
たどり着いたのは、魔導研究施設らしき巨大なドーム。その中心には、黒煙に包まれた発明装置と、爆風で髪を逆立てた男がいた。
「ゲホッ、ゲホッ……ふむ、まだ出力が不安定だな。だが、失敗したわけではない。それを誤りだと言ってはいけない。勉強したのだと言いたまえ。」
「……は?」
咳き込みながら立ち上がった男は、ゴーグルを外して、燦然と笑った。
「君たち! よく来た! ここは未来を創るエジソンソン工房! そして私は天才発明家、エジソンソンだ!」
「……テンション高っ」
シスタ-マリアが小さく呟いた。
「だがな、少年たち。天才とは、1%のひらめきと99%の努力で出来ているのだよ! そして、私は今日も99%の爆発をしているッ!!」
「努力の方向おかしくない!?」
アルベルトが思わず突っ込む。
「私は決して失望などしない。なぜなら、どんな失敗も新たな一歩となるからだ。」
エジソンソンは鼻息荒く、背後の布をバサッとめくった。
そこには巨大な翼を持つ金属の船体、未完成の魔導飛空艇が姿を現した。
「こ、これは……空を飛ぶ船!?」
「その名も、フリードリヒZ型魔導飛空艇Mk-VII試作壱号! 未だかつてない空の旅を実現する、夢の結晶だ!!」
「すげえ……こんなもんが本当に飛ぶのかよ……」
「飛ばすのだ、少年! だがな、エンジンが足りない。必要なのは、禁断の魔導エンジン……それは《ルナの塔》に眠っている」
その名を聞いて、シスターマリアの顔が曇る。
「……あの塔は魔導実験の失敗で封印されたはずよ。内部は危険すぎる」
「だが私はこう考える。“失敗すればするほど、成功に近づいている”それが真理だ!」
エジソンソンは胸を張って言った。
そんな中、リスクが突然、勢いよく手を挙げた。
「オッケー! そのエンジン、俺たちが取りに行く!」
「リスク!?」
「聞けよ、アルベルト。これさえ完成すれば、空の物流を独占できる。各地の特産品を空路で直送! 新鮮な果物も、希少な鉱石も、すぐに売れる!」
「リスク、目が金貨になってる……」
「だから言ったろ? 私は失敗したことがない。ただ、1万通りのうまくいかない方法を発見しただけだ!つまり、挑戦は宝だ!」
エジソンソンとリスクは握手を交わし、二人の目には火花が走った。
「よーし、やってやるぞ! この発明とビジネスで、世界を変えるッ!」
「ふふ、君たちは面白い。“発明は、未来への手紙だ!ならば、我らの手で希望を描こう!」
そして、勇者アルベルト、シスターマリア、村人リスクの三人は、再び危険な冒険へと身を投じる。
次なる目的地は、魔導実験施設の禁断の塔《ルナの塔》。
その先に待つのは、古き魔導の闇か、それとも空を翔る希望か




