表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【45万PV突破 ! 全話 完結】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『 カズヤと魔族のおっさんの事件簿:騎士道 フェンシング王者殺人事件』
1046/1101

第6話 剣が映す影

白銀アリーナの倉庫は、夜でもわずかな冷気を孕んでいた。

鉄の匂いと、かすかな油のにおい。

その中で、カズヤは折れたサーベルを白い手袋越しに拾い上げた。


「……妙だな。訓練用の剣にしては、やけに重い」


アイゼンがうなずく。

「金属の密度が違う。刃が“切るための構造”をしている」


フェンシングのサーベルは本来、安全のために先端が鈍く加工されている。

だが、レオンの剣は違った。

その刃は、光の角度で微かに血のような赤を反射していた。


カズヤがドイツから輸入記録を追うと、ひとつの名が浮かび上がった。

ヴィクトール・クラウス。


その夜、カズヤとアイゼンは彼のホテルを訪ねた。

古いヴァイオリンの旋律が流れる中、ヴィクトールは静かにワインを傾けていた。


「レオンの剣……あなたが用意したんですね」

カズヤの言葉に、ヴィクトールは笑わなかった。


「剣は、持つ者の魂を映す鏡だ」

「……呪われていたとでも?」


「呪いとは、人の“誓い”が腐ったときに生まれるものだよ」


ヴィクトールの目が、過去の影を映すように遠くを見ていた。


「昔、ある騎士がいた。

名誉のために戦ったが、試合は偽りの審判で汚された。

彼は自らの剣を折り、己の胸を貫いた。

その剣はこう呼ばれた――“真実を映す刃”。

折れてもなお、嘘を斬る。」


カズヤは折れたサーベルを見つめた。

刃の根元に、かすかに刻印があった。


K.K.


「K……Kisaragi Leon?」

アイゼンが低くつぶやいた。


「いや、もうひとつの“K”だ」

カズヤの声が冷たく響く。

「すり替えを行えたのは、レオンに“特別な訓練剣”を預ける権限を持つ人物。

つまり……師、氷室隼人。」


アイゼンの目に一瞬、青い霊光が宿る。


「……しかし、彼は“演じていた”ように見える。潔白を。」


ヴィクトールがゆっくりと笑った。

「偽りの勝利者は、己の剣で裁かれる

それが、この剣に刻まれた掟だ。」


折れたサーベルが、照明の下で淡く光った。

それはまるで、死んだレオンが今もなお“真実”を指し示しているかのようだった。


そしてカズヤは思う。

この事件は、まだ終わっていない。

“真の騎士”の名に値する者が、まだ姿を現していないのだ。


如月レオン(被害者)

27歳。日本フェンシング王者。

協会の不正を暴こうとしていた理想主義者。

死の直前、「To the True Knight」という手紙を残す。


神宮寺メイ

レオンの婚約者で元選手。

事件当夜、彼と口論していた。心に秘密を抱えている。


氷室隼人

フェンシング協会理事でレオンの元師。

冷酷な勝利至上主義者。しかし殺人の動機が見つからず、どこか「芝居じみた潔白」を感じさせる。


橘リサ

スポーツ記者。協会の不正を追っていた。

取材メモを盗まれ、命を狙われる。


ヴィクトール・クラウス

ドイツ人コーチ。

「剣は魂を映す鏡」と語る哲学者肌。

魔剣伝説に詳しい。


東条カレン

協会広報担当。元ジュニアフェンシング選手。

明るく有能だが、レオンとは「過去に師弟関係にあった」と噂される。

事件後もなぜか冷静すぎる態度を見せる。


如月アオイ

レオンの妹。

兄を慕っていたが、兄の理想に人生を縛られていた。

取材の中でカズヤにだけ涙を見せる。


八代宗一郎

スポンサー企業「八代グループ」の御曹司。

フェンシング協会の最大の出資者。

穏やかで紳士的だが、レオンの死を「惜しい逸材でしたね」と冷たく評する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ