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【45万PV突破 ! 全話 完結】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『 カズヤと魔族のおっさんの事件簿:騎士道 フェンシング王者殺人事件』
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第2話 幻のエペ使い

白銀アリーナの一角。

事件の翌日、静まり返ったロッカールームに、乾いた空気と消毒液の匂いが漂っていた。


ロッカー番号17

それが、如月レオンの使っていた場所だった。


警察の検証が終わった後、遺品の整理を任されたカズヤは、

白手袋をはめたまま、丁寧にその扉を開ける。


中には、整然と並べられた白い防具と、一本の折れたサーベル。

そして、封蝋で閉じられた古びた封筒が入っていた。

表面には、美しい筆跡でこう書かれている。


「To the True Knight」(真の騎士へ。)


カズヤは小さく息を呑む。

「……これが、レオンさんの遺書……?」


背後で、低い声が響いた。

「違うな。」


アイゼンハワードが、光の差し込む方を背に立っていた。

長身の影が壁に落ち、どこか異界の気配を漂わせている。


「これは“手紙”だ。宛名があるだろう? “真の騎士へ”……つまり、生者に向けた言葉だ。」


カズヤは唾を飲み込み、震える手で封を切った。

中から出てきたのは、一枚の薄い便箋。

英語とラテン語が混じった筆跡で、こう記されていた。


The sword must reflect the soul.

If it breaks, it means the soul itself was divided.

I shall meet the True Knight tomorrow.


「剣は魂を映す。もし折れたなら、魂が裂かれたということだ。

そして“明日、真の騎士に会う”。」


カズヤは声を潜めた。

「つまり、事件の前日に“誰か”と会う約束をしていたってことか……。」


アイゼンが静かに頷く。

「決闘それも、非公開のものだ。」


その頃、神宮寺メイは警察の取調室にいた。

長い黒髪をひとつに束ね、まるで氷の彫刻のような表情をしている。

彼女はレオンの婚約者であり、元フェンシング選手だった。


「レオンは……何をしようとしていたんですか?」

カズヤの問いに、メイは一瞬だけ目を伏せた。


「協会の“闇”を暴こうとしていました。」


「闇?」


「ええ。彼は言っていました。“勝利の裏には、血の契約がある”と。

 協会の理事たちが、一部の選手に“点数を操作する仕組み”を作っていたんです。」


「不正審判か……」


「でも、彼は私に言ったの。

 “それを暴けば、僕は敵を作る。だけど、正義を信じる騎士が必ず現れる”と。」


メイの声が震える。

「“真の騎士”って……それが、あの手紙の相手……?」


カズヤは言葉を失った。

もしレオンがその人物と会っていたのなら――それが犯人である可能性が高い。



夕暮れのアリーナ裏。

カズヤとアイゼンは、ヴィクトール・クラウスのもとを訪れた。

ドイツ出身の彼は、古びた剣を磨きながら言った。


「妙月レオンは、純粋だった。だが、純粋な剣はいつか自らを傷つける。」


彼の口調は静かで、どこか祈りのようだった。


「彼が憧れていたのは、“騎士が騎士を裁く剣”――古代の伝説です。

 真実の騎士が、偽りの騎士を見抜いた時、

 その剣は折れ、真実の血を流すと……。」


カズヤはその言葉にぞくりとした。

折れたサーベル。

まさか、それが“伝説の再現”だとでも言うのか?


「ヴィクトールさん。レオンは、誰とその“決闘”を?」


彼は磨いていた剣を止め、カズヤを見つめた。

「……それは、知らぬ方がいい。」


「どういう意味です?」


「彼は“真の騎士”を探していた。だが、見つけたのは“幻”だったのです。」


風が吹き抜け、窓辺の防具がかすかに揺れた。

そのとき、アイゼンが低く呟いた。


「……霊が囁いている。

 “決闘は一度きりではなかった”――とな。」


カズヤは目を見開いた。

「一度きりじゃない……? じゃあ、レオンの“最後の試合”の前にも――」


「そうだ。彼はすでに“幻のエペ使い”と戦っていた。」


アイゼンの瞳に紅が宿る。

「そして、その者が“真の騎士”を偽った。」


アリーナの照明が再び灯る。

折れたサーベルの破片が、ケースの中でかすかに光を返す。


カズヤはその光を見つめながら呟いた。

「幻のエペ使い……。

 その正体を突き止めれば、レオンの死の真実が見えてくる。」


アイゼンは静かに微笑む。

「騎士道とは、己を欺かぬ心だ。

 だが、人間は“名誉”という仮面を好む。」


二人の視線の先、

白銀のサーベルが、まるでまだ戦いを続けているかのように光っていた。

それが、“幻の騎士”の残した挑戦状だった。


如月レオン(被害者)

27歳。日本フェンシング王者。

協会の不正を暴こうとしていた理想主義者。

死の直前、「To the True Knight」という手紙を残す。


神宮寺メイ

レオンの婚約者で元選手。

事件当夜、彼と口論していた。心に秘密を抱えている。


氷室隼人

フェンシング協会理事でレオンの元師。

冷酷な勝利至上主義者。しかし殺人の動機が見つからず、どこか「芝居じみた潔白」を感じさせる。


橘リサ

スポーツ記者。協会の不正を追っていた。

取材メモを盗まれ、命を狙われる。


ヴィクトール・クラウス

ドイツ人コーチ。

「剣は魂を映す鏡」と語る哲学者肌。

魔剣伝説に詳しい。


東条カレン

協会広報担当。元ジュニアフェンシング選手。

明るく有能だが、レオンとは「過去に師弟関係にあった」と噂される。

事件後もなぜか冷静すぎる態度を見せる。


如月アオイ

レオンの妹。

兄を慕っていたが、兄の理想に人生を縛られていた。

取材の中でカズヤにだけ涙を見せる。


八代宗一郎

スポンサー企業「八代グループ」の御曹司。

フェンシング協会の最大の出資者。

穏やかで紳士的だが、レオンの死を「惜しい逸材でしたね」と冷たく評する。


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