第十二話 地底から地上へ
地底竜ティアマットの死により、恐怖していたドワーフの民に、ようやく平和の光が差し込んだ。
「――やったな、みんな……!」
リスクが、ひとつ息を吐いた。
地底の空気はまだ冷たいが、その胸の奥には、温かい熱が広がっていた。
ティアマットを倒したことにより
一気にレベルが3も上がった。
勇者アルベルトの体にじんわりとした温もりが広がる。
《勇者アルベルトのレベルが上がった!》
《体力が130上がった!》
《力が90上がった!》
《防御が84上がった!》
《素早さが55上がった!》
《賢さが60上がった!》
《魔力が32上がった!》
《運が45上がった!》
《新しい魔法「ヤマカン」を覚えた!》
「ヤマカン……って、なんだこれ?」
アルベルトが眉をひそめると、シスターマリアがクスリと笑う。
「その魔法は、“一か八かで正解を導く”魔法です。試験とか……ギャンブルに強いかも?」
「なんでそんなの覚えたんだ俺……!」
爆笑が仲間たちに広がった。
シスターマリアの周囲にも優しい光が舞う。
《シスターマリアのレベルが上がった!》
《体力が135上がった!》
《魔力が68上がった!》
《素早さが34上がった!》
《賢さが60上がった!》
リスクの体にじんわりとした温もりが広がる。
《リスクのレベルが上がった!》
《運が55上がった!》
《賢さが60上がった!》
《新しいスキル「逆手価格誘導」を覚えた!》
「逆手価格誘導?」リスクが首をかしげる。
シスターマリアが説明を加えた。
「相手に“高すぎる”と思わせた後に提示すると、実際の価格が安く感じられる心理的スキルみたいです。」
「いや俺、いつの間にか経営者みたいなスキル多くなってない?」
ティアマットの死体が崩れた後、その影に隠れるようにして、ひとつの重厚な宝箱が残されていた。
ギギィ……と重い音を立てて、それを開けると――
中には、漆黒の鱗で編まれた、重々しくも威厳ある鎧が。
《大地の鎧》
地属性の攻撃を遮断できる、竜の鱗で編まれた伝説の鎧
「これは……!」アルベルトが目を見張る。
「もしかしてリスク、それ……また装備できるのか?」
「……できました。村人が……伝説になりました。」
「いいじゃないか。」アルベルトは笑いながらリスクの背中を力強く叩いた。少しでも強い装備に変えとけ。生き延びる確率が上がる。」
リスクは静かに頷いた。
地底要塞には歓喜の声が響き渡っていた。
そして――
ドワーフの姫・カンナとともに、《グラングロット》の大門へ。
見送りに集まった数百人のドワーフたちが、旗を振り、声を張り上げていた。
「リスクーー!!」
「ありがとう!地底の英雄ー!!」
カンナ姫が、涙をこらえながら叫んだ。
「リスク……!あたしに、惚れるなよッ!!」
「惚れてないわ!!」
カンナの目から、涙が一粒こぼれた。
それを見ていたシスターマリアが、そっとカンナの肩に手を置く。
「リスクは、また来ますよ。商売好きですから。」
「……マジで、帰ってこいよ。」
アルベルトは少し照れながら言った。
「いつかまた、地底のビールを飲みに来よう。……リスクのおごりでな。」
「勇者様、なんてこと言いますか……。」
ドワーフたちが、再び胸を打つ――
カツン、カツンと、金属音が勇者一行の背中を押すように鳴り響く。
「英雄に敬礼!!」
「アルベルト万歳!!」
「マリア様ありがとうー!!」
「リスクー!商売繁盛ー!!」
怒号のような歓声の中、勇者たちは光に向かって、一歩ずつ階段を上っていく。
その背中を、誰もが誇りに満ちた眼差しで見つめていた。
そして最後に。
リスクが階段の途中で、ほんの一度だけ振り返り、小さく手を振る。
「……またな。」
その一言に、地底全体がざわついた。まるで、伝説がもう一度始まるかのように。
そして
勇者たちは、地上へと戻るため長い階段を登り始めた。
そう、次なる冒険の舞台へ
新たな物語が、また幕を開ける。
【第七部・完】