表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【45万PV突破 ! 全話 完結】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:夜葬ホテルと十三階の幽霊』
1019/1101

序章 夜葬(やそう)事件

それは十年前の冬。

雪が音を失うほど静かな夜だった。


山中の高級ホテル「ルミナス」には、その晩十三人の宿泊客がいた。

企業の社長、ピアニスト、モデル、画家、夫婦、僧侶、旅の若者。

偶然か、あるいは必然か、その夜、全員が同じ階に泊まっていた。


十三階。

最上階であり、最も眺めのいい階。

だが、そこに泊まる者は、なぜか一晩ごとに悪夢を見たという。


「誰かがドアをノックする音がする」

「部屋番号を呼ばれる」

「エレベーターが勝手に動く」


そんな噂を、従業員たちはひそかに語っていた。


だが、支配人の城之内じょうのうち礼司は迷信を信じなかった。

「このホテルは完璧だ。亡霊など存在しない」

そう豪語し、十三階の“呪い”を否定した。


そして、その夜が来た。


午後十一時五十五分。

吹雪が窓を叩くなか、非常ベルが一度だけ鳴った。

停電が起き、館内が闇に包まれる。

フロント係の月原つきはら結衣は、懐中電灯を手に階段を上がった。

しかし、十三階のドアの前に立った瞬間、彼女は足を止めた。


扉の隙間から、ピアノの音が聞こえてきた。

ゆっくり、ゆっくりと


葬送行進曲を逆再生したような、不協和音の旋律。

そして、音が止んだとき、階段の明かりが一斉に消えた。


翌朝。

警察がホテルに到着したとき、十三階の全ての部屋が施錠されていた。

ドアをこじ開けると、宿泊客十三人がそれぞれの部屋で息絶えていた。

窓は閉ざされ、暴行の痕もない。

死因は全員、心臓麻痺。


ただし一つだけ、異常があった。


全員の枕元に、白い手袋が一組ずつ置かれていたのだ。

それはホテルの制服用ではない。

まるで「葬儀に参列する誰か」が、

一人ひとりに手向けたように整然と並んでいた。


しかも、十三人の遺体はそれぞれ、異なる方向を向いて倒れていた。

まるで“見えない指揮者”の指示で、

最後の瞬間まで、何かの“儀式”を演じていたかのように。


事件は新聞で「夜葬事件」と報じられた。

動機も犯人も不明。

唯一生き残ったのは、フロント係の月原だけだったが、

彼女はその後、発狂して行方をくらました。


以来、ホテル・ルミナスは閉鎖され、

誰も十三階に近づかなくなった。


だが、噂は消えない。

満月の夜になると、廃ホテルの最上階で、

誰もいないのに、フロントベルが三度鳴る。


チリン……チリン……チリン……


まるで、再び“客”を迎え入れるかのように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ