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【45万PV突破 ! 全話 完結】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:規制虫 管理人殺人事件』
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終章 規制する者を、規制せよ。

夜の目黒川沿い、ビルの谷間を縫うように冷たい風が吹き抜けていた。


パトカーの赤色灯がリバーサイド大河原へと近づいてきた。

カズヤは封筒を手に、街灯の下で深く息をついた。


中には“真実”があった。

改ざん前の監視映像、そして今永の最後の録音データ。

あの声がまだ耳に残る。


「……規制する者を、規制せよ。」


東条健二。冷徹で、完璧で、そして最も人間らしい闇を抱えた男。

彼は会社の不正を隠すために今永の死を利用し、データを改ざんして“神”になろうとした。

だが、真実はいつも、監視の隙間から滲み出る。


カズヤは橋の欄干にもたれ、手の中の証拠封筒を見つめた。中には、今永の録音データと改ざん前の監視ログ。すべてが終わった証だった。


警察の車両が遠ざかる。岡田涼子と東条健二は、静かに任意同行された。

ふたりの視線が一瞬交わる。罪悪感と、どこか愛情にも似た執着。

そう、ふたりは不倫関係にあった。


今永を突き飛ばしたのは岡田。だが、その“死”を利用して監視データを改ざんし、会社の不正を消し去ったのは東条だった。

彼は自らが仕える管理会社の闇を知りすぎていた。

だから、規制の名のもとに“真実”を消したのだ。


アイゼンハワードが煙草をくゆらせながらつぶやく。

「規制ってのは、便利な言葉だな。誰かを黙らせるための」


「監視ってのは、一度覚えたら手放せない。

 “安心”の裏に潜むのは、支配の快感だ。

 人間は、自分の目で自分を縛るんだ。」


風が川面を撫で、桜の葉が一枚、ゆっくりと舞い落ちた。

春でもないのに、まるで誰かの魂が舞い戻ったように。


そのとき、遠くのマンション屋上で、小さな赤い光が点滅した。

一瞬、光がカズヤたちの顔を照らす。


アイゼンハワードが顔を上げる。

「……見てるな、まだ。」


カズヤは笑った。皮肉にも、穏やかに。

「アルおじ、いいさ。見たいなら、見せてやろう。

 俺たちが“生きてる”ってことを。」


ふたりは夜の川沿いを歩き出す。

赤いランプは、まるで目玉のように、彼らの背中を見つめていた。


やがて、風が一陣。

その光がふっと消える。


闇だけが残った。

だが、その闇の中にも、確かに何かが“記録”していた。


「規制する者を、規制せよ。」


その言葉が、夜風に乗って、どこかでまた誰かの耳に届く。

目黒川の流れの奥で、監視社会の物語は、静かに次のページをめくっていた。



『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:規制虫 管理人殺人事件』





ー完ー


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