第7話 笑えない監視カメラ
夜のリバーサイド大河原は、ひどく静かだった。
だがその静寂の裏で、数十台の監視カメラが、無言のまま住民たちの一挙一動を記録し続けている。
まるで、建物そのものが生きているかのように。
「……ここだ。南田薫のライブ映像のアーカイブ。」
カズヤがノートパソコンを開くと、暗い画面の中に、揺れる映像が映し出された。
タイトルは《夜のリバーサイド大河原は、ひどく静かだった。》
だがその静寂の裏で、数十台の監視カメラが、無言のまま住民たちの一挙一動を記録し続けている。
まるで、建物そのものが生きているかのように。
「……ここだ。南田薫のライブ映像のアーカイブ。」
カズヤがノートパソコンを開くと、暗い画面の中に、揺れる映像が映し出された。
タイトルは《規制虫の巣を暴く! 第12回》。
南田の甲高い声が響く。
「見てくださいよ、これが“管理人の監視カメラ”! 深夜に何を監視してんだか!」
だが、その背後、暗い廊下の奥に、何かが動いた。
アイゼンハワードがモニターに顔を寄せる。
「……一時停止。ズームだ。」
カズヤが映像をコマ送りにする。
その瞬間、画面のノイズが走り、影が一瞬だけ現れた。
黒いフードを被った人影。
その手には、長い“金属の棒”のようなもの。
アイゼンハワードが静かに呟いた。
「……あの廊下。今永の部屋の前だ。」
さらに再生を進めると、カメラの角度が変わり、ドアが開く音が拾われた。
今永の声が、かすかに。
「誰だ……この時間に……」
その後、何かが倒れる鈍い音。
そしてカメラがブレた瞬間、フードの人物が一瞬だけレンズを覗き込んだ。
笑っていた。
それは笑顔というよりも、“監視している者”へのあざけりだった。
カメラを見ている視聴者に向けて、まるで、「お前も見られている」と告げるように。
カズヤは無言で映像を止めた。
冷たい沈黙が室内を支配する。
「……笑ってたな。まるで、自分がこの映像の向こう側にいると知ってるみたいだ。」
アイゼンハワードは静かに頷いた。
「この犯人……“映されること”を恐れていない。むしろ、意図的に映っている。」
カズヤの脳裏に、これまでの監視カメラ群がよみがえる。
誰も知らない設置場所、二重の監視網、そして“誰か”が全てを統制している構造。
「この笑み……」カズヤはモニターを見つめたまま呟く。
「まるで、“監視される者の恐怖”を楽しむような顔だ。」
その時、ノートPCの画面が突然暗転した。
代わりに表示されたのは、赤い文字列。
『視聴者登録、ありがとうございます。』
南田の動画サーバーに侵入者がいる
誰かが、今この瞬間も“彼らを見ている”。
アイゼンハワードが低く言った。
「……笑えないな。このマンションの監視カメラ映像は、まだ“生きて”いる。」
窓の外、風が鳴った。
まるでどこかの防犯カメラが、今も静かにレンズを回しているかのように。
今永辰夫(いまなが たつお・58)
リバーサイド大河原の管理人。極端な規制好き。被害者。
岡田涼子(おかだ りょうこ・42)
シングルマザー。管理人とたびたび対立していた。息子を守るため過剰防衛気味。
東条健二(とうじょう けんじ・37)
不動産管理会社の担当。冷徹で無表情。実は今永を“ある理由で”監視していた。
大河原修(おおかわら おさむ・65)
マンションのオーナー。住民たちの苦情を無視していた。裏で脱税疑惑あり。
南田薫(みなみだ かおる・28)
YouTuberの住民。規制に反発して“監視カメラを逆に撮る動画”を投稿していた。
田所章(たどころ あきら・50)
清掃員。今永の古い知人。事件前日、口論する姿を目撃されている。
三好梨花(みよし りか・31)
シェアハウスとして違法に部屋を貸していた住人。秘密の副業がある。
日下部礼司(くさかべ れいじ・45)
マンション理事長。几帳面で正義感が強いが、極端なルール主義者。
白鳥舞子(しらとり まいこ・26)
夜勤の看護師。ゴミ出しの朝、最初に死体を発見した人物。記憶に“抜け落ち”がある。
川村俊介(かわむら しゅんすけ・33)
外部の配送員。事件当夜、マンションに入っていたが記録が残っていない謎の人物。