二人の距離
「おはようございます!」
元気な声が、少し緊張した面持ちの彼女、佐藤美咲の口から発せられた。
今日から始まる新しい職場。
期待と不安が入り混じる中、彼女は受付で名前を告げ、案内された部署へと向かった。
「ここが、君の働く営業部だよ」
そう言ってくれたのは、優しそうな先輩社員の田中さん。
彼に連れられて部署に入ると、そこには既に多くの社員が忙しそうに働いていた。
「あ、こちらが今日から入社の佐藤さん。皆、仲良くしてあげてね」
田中の言葉に、部署の全員が顔を上げ、美咲に笑顔を向けた。
その中に、一際目を引く男性がいた。
背が高く、キリッとした顔立ちの彼、鈴木健太もまた、美咲に微笑みかけた。
「鈴木健太です。よろしく」
彼の声は、見た目とは裏腹に、優しく温かかった。
美咲は少しドキッとしたが、すぐに笑顔で応えた。
「佐藤美咲です。よろしくお願いします」
それから数週間、美咲は慣れない仕事に奮闘しながらも、少しずつ職場に馴染んでいった。
健太とは、仕事でペアを組むことも多く、自然と会話をする機会が増えていった。
「佐藤さん、この資料の件だけど…」
「鈴木さん、ありがとうございます。助かります!」
仕事の相談に乗ってくれる健太に、美咲は次第に惹かれていった。
彼の仕事に対する真摯な姿勢、時折見せる笑顔、そして優しい声。
いつしか美咲は、健太のことを目で追うようになっていた。
ある日の仕事帰り、美咲は健太に誘われ、近くのカフェでコーヒーを飲むことになった。
「今日は、本当に助かったよ。ありがとう」
「いえ、私も勉強になりました」
他愛もない会話が続く中、ふと健太が真剣な眼差しで美咲を見つめた。
「あのさ、佐藤さん…」
彼の声が、少し震えているように聞こえた。
「よかったら、今度、一緒に食事でもどうかな?」
美咲は、彼の言葉にドキッとした。
それは、待ち焦がれていた誘いだったから。
「はい、ぜひ!」
美咲が笑顔で答えると、健太もホッとしたように微笑んだ。
「よかった。じゃあ、また改めて連絡するね」
カフェを出て、夜道を二人で歩く。
街灯が、二人の影を長く伸ばす。
美咲は、隣を歩く健太を見上げ、そっと微笑んだ。
(もしかしたら、ここから何かが始まるのかもしれない)
そんな予感が、美咲の胸に広がっていった。
初めての食事は、少し緊張したけれど、とても楽しい時間だった。
健太は、仕事の話から趣味の話まで、様々な話題で美咲を楽しませてくれた。
美咲も、健太の優しい笑顔に、ますます惹かれていった。
食事の後、二人は公園を散歩した。
夜風が心地よく、街灯が二人を優しく照らす。
「今日、本当に楽しかった。ありがとう」
美咲がそう言うと、健太は少し照れくさそうに笑った。
「こちらこそ、ありがとう。また、一緒に出かけようね」
その言葉に、美咲は嬉しくて胸がいっぱいになった。
それから、二人は頻繁に食事や映画に行くようになった。
職場でも、自然と会話が増え、周りの同僚も二人の関係に気づき始めていた。
ある日、部署の飲み会があった。
美咲は、少し酔いが回り、いつものように健太と話していた。
「鈴木さんって、本当に優しいですよね。いつも助けてもらってばかりで…」
美咲がそう言うと、健太は少し真剣な眼差しで美咲を見つめた。
「佐藤さん…」
健太の声が、いつもより低く、そして優しく響いた。
「あのね、ずっと言おうと思っていたんだけど…」
健太は、少し間を置いてから、ゆっくりと続けた。
「佐藤さんのことが、好きです」
美咲は、彼の言葉にドキッとした。
それは、待ち焦がれていた言葉だったから。
「私も…鈴木さんのことが、好きです」
美咲がそう答えると、健太はホッとしたように微笑んだ。
飲み会の帰り道、二人は手を繋いで歩いた。
夜空には、満天の星が輝いていた。
「明日から、また一緒に頑張ろうね」
健太がそう言うと、美咲は笑顔で頷いた。
「はい!」
二人の距離は、少しずつ縮まっていく。
新しい職場で始まった恋は、まだ始まったばかり。
これから、どんな物語が紡がれていくのだろうか。
社会人の短編恋愛小説を書いてみました。
この後の2人についてはご想像にお任せいたします。