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雪だるま  作者: 来春
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雪だるま

僕は知らなかった。雪だるまに意識があることを。


でも、気づいたときにはもう遅かった。僕は既に汚れた雪だるまだった。上半身がない、みすぼらしい塊。町外れの公園にただ転がるだけの存在。最初の記憶は、子どもたちのがっかりした顔だった。わかるよ、こんなはずじゃなかったって。きっと彼らは綺麗な雪で完璧な雪だるまを作りたかったのだろう。でも今年の冬は雪が少なかった。汚れた残りの雪をかき集めて、精一杯作ったのが僕だった。


誰も悪くない。


それでも僕の中には問いが残った。僕は何だったんだろう?溶けるまでただ時間を待つだけの、誰にも望まれなかった存在なのか?

もし次に僕が人間だったら、何をするだろう——そう考えてみた。


そうだ、世界中を旅しよう。汚れた雪だるまを探しに行こう。そして、カメラを持って写真を撮るんだ。

誰もががっかりしたような雪だるま。片目が取れてしまったもの、傾いて立っていられないもの、色が変わった汚れた雪の塊——そういう存在たちを見つけて、僕は大喜びで近づいていくんだ。

「すごいね!こんな素敵な姿になったんだ!」と声をかけよう。びっくりするだろうな。でもきっと、嬉しいに違いない。

だって、僕がして欲しかったことだから。

子どもたちに見放されても、僕はただ一言「すごいね」って言われたかった。だから、僕はその役目を果たそうと思ったんだ。

旅の計画を考え始めると、心が少しずつ温かくなった。最初の目的地はどこにしよう?北の街?それとも少し暖かい南の町で、溶けかけた雪だるまを探すべきだろうか。どんなカメラを買おうか。雪の粒まで鮮明に写るようなレンズがいいな。


そして、雪だるまたちに声をかけよう。


「昔、僕も汚い雪だるまだったんだぜ」


僕の最初の目的地は北の街だった。雪が積もった町並みは、どこもかしこも白一色だ。道路を歩いていると、雪だるまを作った跡があちらこちらに見える。でも、すぐに気づいた。ここでも、雪だるまたちはもう誰にも見向きされていない。雪だるまの形が崩れて、そこにいたはずの命の痕跡が消えかけている。冷たい風が吹き抜け、雪だるまは徐々に溶けていく。

それでも、僕は諦めなかった。目の前の公園に小さな雪だるまがあった。頭に砂がかかっていて、体は傾いている。だが、奇妙なことに、あの頃の僕のように不完全さを感じさせるものではなかった。むしろ、むしろその姿がどこか誇らしげで美しく見えた。

僕は近づいていった。

「すごいね!」と、声をかけた。

雪だるまは動かなかった。でも、その姿勢から、心の中で微笑んでいるような気がした。あの子どもたちの顔が思い出される。きっと、彼らも同じように感じたのだろう。

僕はカメラを取り出し、シャッターを切った。その瞬間、カメラ越しに見た雪だるまは、ただの雪の塊ではなく、命を宿しているように輝いていた。

次に訪れた町では、雪だるまがすっかり溶けかけていた。誰もが通り過ぎて行く中で、僕だけがその姿に心を奪われた。形が崩れ、消えそうになっているその雪だるまに、僕は何度もシャッターを切った。

「すごいね、君も頑張ったんだね。」

またそう声をかけて、僕はその雪だるまと一緒に写真を撮った。旅は続く。世界中には、見放された雪だるまがたくさんいるだろう。でも、僕が見つけて声をかけることで、その雪だるまたちは少しでも幸せを感じることができるかもしれない。

そして僕は気づいた。旅が進むにつれて、僕の心はどんどん温かくなっていった。最初に感じた孤独と寂しさは、少しずつ薄れていった。そして、心の中でふと気づいたことがあった。

僕はもう、汚れた雪だるまではなかった。

僕はただの一つの存在、誰かに「すごいね」と言ってもらいたかった存在だった。

それが、僕がしていたことだった。

旅の終わりが近づいてきた。次にどこへ行こうか。最後に会うべき雪だるまがどこにいるか、もうわかっているような気がした。

「すごいね」

そう言ってくれる人が、きっとそこにいるから

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