身代わりの指輪
かつてこの世を平らげた魔法少女がいた。
それから数百年。魔法少女はいなくなり、剣と魔法ではなく銃と魔法の世界に。
お嬢さん、他国の人? この店に驚いているみたいだからさ。
宝飾品店だよね?って?
まあそうだね。なんで二つでひとセットなのかって?
ここ結婚する人専用の店。お一人様では入らないかな。下見に来るというのはよくあるけど、そんな感じじゃなさそうだし。
結婚となるとお互いに装飾品を送り合い、基本的にはずっと身に着ける、という風習があるんだよね。この国にはね。
まあ、せっかくだから見ていってよ。今日は暇なんだ。
古い世代は腕輪か足環かな。振るときれいな音がする。最近はうるさいと不評だけど、昔はこれをつけて踊ったものだよ。
もう少しあとになると首飾り。宝石やら貴金属やらを多くつけたりするけど、それは財産を守る意義もあってね。争いごとって嫌だよね。
さらにあとは耳飾り。ただ、これは短命だった。片方落として修羅場が発生、ほかのものを買いなおしなんてのは見たね。
で、今は指輪かな。
最近の流行りは身代わりの指輪。
魔女の小遣い稼ぎにはもってこいさ。
あ? 魔女? ああ、作ってるのは魔女。売ってるのは商人。私の性別? 不詳で通しておりますので、知りたければ恋人にでもなってもらわないと。
ケチじゃない。
観測されない限り不定形なだけ。
あー、私の話はいいよ。
身代わり、そう身代わりの話。
これは魔道具で。わかる? 魔道具。呪いのアイテムなんて他国で言われてるけど、それはそう。代価を差し出して、効果を得るものだからね。何事も無料なもののほうが怖いよ。
この身代わりの指輪はなんと相手の痛みを肩代わりできる。なんでも、ってわけでもないけどね。ほら足の小指ぶつけた死ぬというのは、個人で処理する。体調不良で寝込むほど痛いは肩代わりしてくれる。そっちのほうが、体治しやすいでしょう? そう言う感じ。外部取り付け痛み止め、そう言う言い方もできるかな。
これね、昔は戦う人御用達。自分が負傷しても誰かが痛みを代わってくれるなら、まだやれるってこと。そういうことしてるから、負けちゃうんだけどね。ダメだよ、痛みはわかんなきゃ。
やばいブツがなぜ結婚の祝いの品かって? ある奥方がうちに駆け込んできて、言ったんだよ。
「ありがとうっ! おかげで安産だったわっ!」
なんで? と思って話を聞くと、出産の痛みがよほどのことだと指輪が判断したのか、旦那に痛みを強制転送。奥さんは痛みなく無事出産。産後の痛みはあったみたいだけど、一番痛いところは知らずに済んだらしい。
その話を聞いたご結婚予定の女性は目の色を変えたね。即売、予約も入れていかれた。
男性はよくわかってないようで、うん? という顔だった。
あなたが痛いときは私が代わってあげるわっ!とごまかされてもいた。今の時代、そこまで痛いのってないと思うから……。
そこからこう噂が広まったのか、大流行中。
なんでも月の触りも場合により強制転送されて悶絶している男性がいるそうな。あと逆になにを強打した痛みを送られて大事にしよと思った人もいるとか。
これの良いところは、自分では耐えられる痛みと思っていたのが実はダメな痛みで病院に連れていかれるケースが多い。
悪いところは、離婚問題に発展する可能性もあるってこと。痛みの耐性は人それぞれだからね。
ま、もし、君が結婚するならこれをお勧めするよ。
相手がいない。
申し訳ない。
こっちは私が趣味で作った一点ものだけど、どうかな。乙女すぎるとダメ出しされてね。確かにと言われると傷つくな。
そこがいい。それはよかった。
それは一日一回魔法少女に代わるステッキ。
……え、いらない? 私と魔法少女しよ? 相棒がいなくなってずいぶん経つんだ。暇で暇でいいことだけど、最近発生した魔王殴りに行こう?
銃と魔法もいいけど、世は魔法少女だよ。
くっ。逃げられた。
あ、いらっしゃいませ。
どのようなものをお探しでしょう?
ご結婚される? おめでとうございます。
それでしたら、こちらの指輪がおすすめです。
残されたマスコットと悪の組織だった魔女連盟は、余生を楽しんでおります。