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51.

「レイ様、本当に行くんですか?」


ロキは何度も説得をしては断られた台詞を、再度念を押して問うた。

数人の龍騎士を連れて、森の中を歩く。ここまで来てまだ言うか、とばかりにレイは不服そうにロキを見た。


「何がそんなに心配なんだ。万が一なにかあっても、ロキが守ってくれるんでしょう?」

「う…もちろん、今度こそ何が何でもレイ様を守りますけど…」


試すように言われて、ロキは苦虫を噛んだように顔を歪める。

ロキは、目の前でレイが攫われたあの失態を今でも悔いているようだ。レイが怪我をし目覚めて一番に泣いたのはロキだった。そして何度も何度も謝られた。

レイは気にしなくてもいいのに、と思う。

ロキだって、あの出来事で足に大きな怪我をした。暫く動けずに療養していたと聞く。レイの方こそ、怪我をさせて申し訳ないと思った。


そんなロキに何度も説得させられても頑なに城を出たのは、今日は地上にいた鳥人族をこの国に迎え入れる日だからだ。


レイは、この日の為に政務会議に参加させてもらい受け入れ準備に務めた。土地の選別や住処の構築、近隣住民への理解、課題は多かったが、何とか今日の日を迎えることができたのだ。

『地上の鳥人族を迎える』龍神が認めた決定事項は王命より強い効力を持つため、反対する者はいなかった。

だが、レイがその件に積極的に参加するのに、意を唱える者は少なからずいた。

ロキもその一人。顔にデカデカと『心配』の文字が見えるほど。

その過保護っぷりはランスロットと肩を並べる程だとレイは眉を下げる。


「これだけ多くの龍騎士がいて、何かあるとは思えないけれど」

「いや、…確かにランスロット殿下が、今日一緒に来れないからって護衛の龍騎士の人数を倍にしたのは、やりすぎだとは思いますけど…」


ロキの言う通り。森の中を歩く長蛇の列は、御一行様のお通りのように目立って仕方無い。

大きな竜族に囲まれ一人小さなレイは、落ち着かなくてついつい親交のあるロキの近くにいてしまうのは許してほしい。



森を抜けて、開けた大地に出る。

岩山を好む鳥人族の為に場所を厳選し、この森を鳥人族の住処とした。元々この地にいた住民と共存できるよう人数分の家屋や生活用品を準備している。

地上には龍騎士達が村民を迎えに行った。

太陽が真上に昇る頃、この場所で落ち合うことになっている。


しばらくして遠くに黒点の群れが見えた。それは次第に近づき、龍の群れだと分かる。

大群の龍達は一斉に集まり、やがて地面に翼を降ろした。

龍騎士達と共に、背には鳥人族が乗っていた。


「お待たせしました」


指揮官であろう、一人の男が軽快に龍の背から降りレイの前に立った。

セミロングの金髪にタレ目の龍騎士。レイは初めて会う人だった。


「はじめまして神子様。副団長のクロノと申します。団長からはよく話は聞いてますけどお会いするのは初めてですね」


ニコニコと微笑む愛想の良い男性。親しみやすい空気を纏ったクロノに、レイも慌てて頭を下げる。


「副団長さん。はじめまして。今日はよろしくお願いします。護衛も付けてくれてありがとうございます」

「いえいえ、団長が過保護なばかりにこんな大掛かりになってすみませんねぇ」


レイの背後にいる龍騎士の人数を見て苦笑する。

龍騎士を従える副団長なのに威厳を感じさせない振る舞いは、あまりにスマートでレイは感心した。

笑うと泣き黒子が映えて色気がある。クロノはゆっくりと背後に目を向けた。


「無事、地上の鳥人族をお連れしました」


龍の背に乗った鳥人族はおずおずと地に足を付けた。初めての地に戸惑いと不安が感じられた。

しかし、目の前の大地を見て一人の子供が弾けた声をあげる。


「あ!ぼくの家がある!」


それを皮切りに、鳥人族は信じられないモノを見るように声を震わせた。


「嘘だ…」

「信じられない…」

「また、出会えるなんて」


涙を流す人もいる。

それを見て、レイはやって良かったと思った。


目の前の光景。

それは、地上の焼けて失った鳥人族の村に限りなく近い風景。

レイは魔法でこの大地に新しい村を地上とまったく同じように構築した。

失ったモノは取り戻せないけれど、せめてもの償いをしたかったのだ。


鳥人族達の中に、見覚えのある姿をみた。レイを攫ったアラン。そしてキースの姿だ。

二人の表情は、あの時と違って優しいものだった。

レイは二人に向かって、深々と頭を下げた。遠くに居る二人には見えないだろうが、せめてもの敬意だった。この地に来てくれた、それを見れただけで充分だ。

あとは龍騎士達に任せ、レイは役目を終えたとばかりに踵を返した。


「あれ?レイ様、もう帰るんです?」

「今日はもともと様子を見るだけのつもりだったからね。無事が確認できたから充分だ。力仕事は逆に邪魔になるだろうし、国交は政務官の仕事だし」


そう言って城を出たのに、護衛人数が多くて大掛かりになってしまった。

ここに残る龍騎士もいるだろうから、帰りは少人数で帰れるだろうか。

来た道に戻るレイをロキは引き止める。


「村長にせめて挨拶だけでも」

「私は少し手伝っただけだ。そんな出しゃばった真似できるか」

「少しじゃないでしょう。レイ様がほとんど準備したのに」

「私はこんなことしか出来ないから」

「もー、いつもそういう」


ロキはブツクサと愚痴を言う。だが言葉とは裏腹に顔はニコニコと緩んでいた。

罪滅ぼしの自己満足だと苦笑するレイの姿に、仕える神子様が謙虚で聡明で誇らしかった。

その様子を見ていたクロノは目をパチクリとさせる。


「あらやだ。神子様ってこんなに自己評価低いんです?」

「そうなんですよ、クロノ副団長も言ってくださいよ」

「その身なりで神子様が無自覚なんて、団長も苦労しますねぇ。まぁ、ナルシストの自信家だったら、それはそれで困りものですけど」


レイは、ふと足を止めた。

何故ランスロットが苦労するのか分からなかった。

それに、その身なりとは。ジッとクロノに目を向ける。高身長で龍騎士に相応しい筋肉質な体型。容姿端麗で大人の色気もある。これだけ見目がよければ、自分に自信もつくだろう。

無いもの強請りとはこのことだが、クロノのように誇れる容姿をしていないレイには、『ナルシスト』など程遠い感情だった。



結局、城への道中も半数以上の龍騎士達と共に帰城した。終戦したとはいえ龍騎士も忙しいだろうに。レイは申し訳なくなる。毎回大掛かりになるのでレイの気持ちについついストッパーがかかる。近頃はレイの性格を知って、ランスロットがわざと大掛かりにしているのではないかと疑っている。


しかし最近は城の外に出る機会が増えてきた。特にブラウンズ博士の家とは、転移魔導装置でいつでも行き来できる環境が整っていて、今では週に2~3回は魔導装置で博士の元に行き、朝から日が沈むまでどっぷりと魔法の研究をする。すっかり家に入り浸っているのに、博士は実の孫のようにレイを可愛がって受け入れてくれる。それが嬉しくてこそばゆい。レイにとって居心地の良い場所だった。


部屋に戻る前に、レイは城の庭園に寄ることにした。数週間前に植えた薬草の芽が、そろそろ摘み時なのだ。夕方に収穫した方が良いと図鑑にあったので、朝から楽しみに待っていた。

明日はタイザーさんにその薬草を使った処方箋を習おうと、レイはワクワクしながら庭園に向かう。


レイの気持ちは浮足立つ。護衛のロキが後ろから、ゆっくり歩くように促した。

庭園に着く。ふと、遠くで二人の人影があった。

見覚えのある背丈。ランスロットだと、気づきレイは早足になる。

しかし束の間、もう一人の姿に足が止まった。


「あれ?殿下、城に戻られていたんですね」


ロキの声を後ろで聞きながら、レイは目の前の光景に釘付けだった。

ランスロットの隣には、ドレスを着た淑女がいた。淡い色合いに装飾が施されたドレスが女性の気品を際立たせる。竜族であろうその女性は、同族のランスロットと背丈も釣り合いがとれて横に並ぶとお似合いだった。美男美女とはこの事だ。


今日、ランスロットはどうしても抜けられない用事があると言っていた。

政務だと勝手に思っていたが、笑顔で話す二人の様子は、仕事とは思えなかった。


「…ロキ。あの女性は?」

「あぁ、あれは殿下の婚約者のミリア様です」


平然と返ってきた答えに、レイの思考は停止する。

婚約者のミリア様。

緩やかに揺れる茶色い髪が、愛らしい顔によく似合う。美しい女性。

竜族の女性。


(そうか…ランスには、婚約者がいたのか)


お似合いの二人の姿を遠くで見て、レイの心はぽっかりと穴が空いたように、虚無感で立ちすくんでいた。


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