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47.

「アレは口を開いた途端に、レイ様の事しか話さないのですね」


地下を出た後、ランスロットはふとそう言った。嫌味でもなく素直な感想だった。

レイを傷付けて戦意喪失のまま一言も発する事もなく天界に連れて来られ、地下牢に入れられても人形のように無気力だった。

それが、先ほどのうって変わった態度はなんだ。この国の誰にも興味を示さず、視界にも入れず、問い掛けにも応えなかった廃人が、レイを前にして息を吹き返した。


「先ほどの話、本心でしたら諦めて下さい。我々はアレとレイ様を同等に扱うことは出来ません」


厳しい言葉に、レイの歩みは止まる。いつも優しいランスロットが、不機嫌な事だけは分かる。

以前からアルフレッドの話になると、人が変わったように冷たくなる。数少ない言い争いの原因はいつもアルフレッドの事だ。

この価値観の違いは、親しくなっても分かり合えない。お互い譲れない想いがあるから厄介だった。


「…ごめん。でも、」

「レイ様の言い分は聞きたくありませんし、聞く気もありません」

「冷たいな」


思わず口にしてしまったレイの言葉にピクリと動きが止まったが、ランスロットも引かなかった。


「冷たくて結構です」


ツーンとそっぽを向く。子供じみた態度。こうなるとテコでも意見を変えない。レイは眉を下げる。そう言う事ではないと、胸がモヤモヤした。


「私は、アルを許せなんて言わないし、仲良くしろとも言ってない」

「当たり前です」

「だけれど、ランスのその態度の違いは…少し辛い」

「え?」


思いがけない言葉に、ランスロットは視線を合わせた。

レイは唇を噛んで、胸のモヤモヤを言うべきか迷った。だが、アルフレッドがこの国に来て、この国の法律で裁かれようとしてる今、この蟠りは話すべきだと思った。


「ランスは忘れているかもしれないが、アルと私は双子の姉弟だ。今はこんなにも顔も体格も差がついてしまったが…生まれたばかりの時は、髪と瞳の色以外はそっくりだったんだぞ?」


成長過程で見た目は全く異なったが、紛れもない双子の片割れ。


「私は、時々思う。リオウが生み落とした『黒龍の神子』が、私でなく同じ胎内にいたアルだったら。私は銀髪、青眼で普通に生活できて、長い年月隠れて生活しなければいけないのはアルだったら。私はアルがやったように、必死に地上の法律に背いてアルを守っただろう。大切な家族を失いたくない。魔法を必死に勉強して、弟を守る為に生きる。そして天界からやってきたランスは、私には目もくれずに、アルを連れ去る。きっと、その冷たい眼は私に向けられていた」

「…レイ様」

「あくまで想像だよ。だけれどそんな運命もあった。紙一重だ。黒髪黒目の人間だから、ランスは初めて会った時からずっと優しい。だが私がただの地上の人間だったら…、そう思うと辛い」


最後の方は、声が萎んでいた。

レイはこの国に来て無条件で優遇された。『黒龍の神子』の肩書きがあるからだ。だが、アルフレッドと立場が逆だったら、この国の敵は自分だったとレイは思う。双子の姉弟だからこそ、運命の分かれ目が限りなく近く感じた。ランスロットのこの優しい目もきっと自分に向けられなかった。レイはアルフレッドとの扱いの違いが明白な程、心苦しさを感じるのだ。


「なるほど」


ランスロットは顎に手を当てて呟く。


「そうですね。レイ様が『黒龍の神子』ではなく銀髪の青い瞳だったら、きっと違う出会いをしていたのでしょうね」


素直に認めて、そして飄々と言った。


「それに何か問題がありますか?」

「え」


思わず顔を上げると、目線が合ったランスロットは、優しくふわりと笑った。


「アレが仮に『黒龍の神子』だったら、それでも地上にいる限り、私は迎えに行ったでしょう。この国へ、龍神様の元へ連れ帰るのが私の任務ですから。そんな運命だったら、私はレイ様とどんな出会いだったのでしょうね?アレと違ってレイ様だったら国交の時点で、我々種族の意見を聞きつつ最善の策を講じたでしょうか。竜族の事も『黒龍の神子』の存在意義も知った上で、この国が地上より安全なのかと一度足を運ぶかもしれませんね。そして、私はレイ様をこの国に案内するのです。城や街や山や湖や、沢山の国の魅力を話して、地上より安全な国だと誠心誠意お伝えして、レイ様はきっと目を輝かせるのでしょうね。まぁ、まったくの想像ですが」


ランスロットの話は、レイの凝り固まった思考を崩すには充分で、ハトが豆鉄砲を食らったように目を見開く。


「レイ様の想像上の私はそんなに冷酷でレイ様を傷付けるのですか。酷い男なのですね。私の想像では、いつだってレイ様はレイ様です」


再び拗ねた様子を見せて、ランスロットははっきりと言った。


「この国の事を知ろうともせず、レイ様を幽閉したのはアレの意志。鳥人族を囮に仕向けたのもアレの意志。戦争を仕向けたのもアレの意志です。幽閉中に多大な知識を習得したのはレイ様の御意志。あんなにも勤勉に医療を学んだのもレイ様の御意志。鳥人族に襲われても憎むどころか最後まで異種族を守ろうとしたのもレイ様の御意志。この国の水の浄化策を託したのもレイ様の御意志です。これだけの成果を見せつけて、どうしてレイ様とアレを同罪にできますか。可笑しくて笑ってしまいますよ。レイ様が逆の立場で同じ事をしたと想像するならば、私はもっと別の未来を想像します。だからどんなにレイ様がアレを大事にしようと、私はアレのした事を許そうとは思いません」


最後にはしっかりと釘を刺されたが、レイは話の内容があまりに衝撃で目の前がチカチカした。


「…ランスは本当にすごいね」


当たり前のように人生観を変える。いつだってレイの世界を変えるのはランスロットだ。

レイは言葉の意味を仕舞うようにギュッと胸を抑えた。


「まぁ…私が許す許さないの感情を抱いても無意味です。明日、龍神様の判断が下ります。アレがどうなるか、レイ様も覚悟しておいてください」

「……分かった」


複雑な感情を隠すように、レイはランスロットの手を握った。大きな手はいつでも温かい。

レイはこの深刻な時期にアルフレッドを差し置いてこんなにも心が満たされて良いのか、背徳感を感じていた。胸の高鳴りが手から伝わらないかとドキドキして、更に胸を高鳴らせるのだった。

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