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43.

伝説の天界の国、アルスラン王国との戦争は終焉を迎える。

数々の町や村は焼き払われ多大な死者を出し、国は広大な森を失った。降り立った龍は虐殺され、その珍しい血肉は高値で売買されたという。

しかしながら、戦争の元凶といわれた黒髪黒目の忌み子の姿を見た者は誰一人いなかった。結局は戦争の引き金は曖昧のまま、多大な被害を被って戦争の火は終息していったのだ。

後々の話では戦火で焼けた鳥人族の村に、突然の豪雨が降り注いだらしい。火の海と化していた森の被害は、豪雨によって最小限に留められた。それでも一木一草の慰みにしかならなかったが。



◇◇



「レイ」


空の彼方。雲をベッドにした広間に大きな黒龍が寝そべっている。

守るように翼で覆われた場所に、小さな人間が眠っていた。


「悪い子だね。私は命は護れると言ったけど、無理をしろとは言っていない」


命の灯火は一度消え、その直後に龍神の加護によって息を吹き返した。細い糸で繋ぎ止められた小さな命は、今は眠りから覚めないまま、龍神に過保護に囚われている。


龍神は眠る直前に聞いた、我が子の悲痛な願いを思い出す。

自分の身体がボロボロなのに、必死に縋って哀願するのだ。


(リオウ…どうか…どうか焼けた地上を助けてくれ)


「私の愛し子は、いつも自分よりも誰かの事ばかり…。分かったよ。レイの気持ちを尊重しよう」


神の力によって、土砂降りの大雨が天から降り注いだ。

炎の海は、次第に水蒸気となり鎮火した。

だけれども、失ったモノは取り戻せない。鳥人族の長がどんなに嘆こうとも、これからは国交次第だ。人と人との関係性であって元凶は忌み子ではない。

これ以上、愛し子を『忌み子』にさせはしない。


「しかし、死の淵で魔法を発動するとはね」


レイは、唯一動かせる指で、頭で暗記していた、ブラウンズ博士から貰った魔法陣を描いた。

移動魔導装置の発動。移動先は龍神の元だった。

この最悪を打開するに、神の元を選ぶとは、我が子ながら末恐ろしい。


アルスラン帝国に、言葉通り死に物狂いで戻ったレイは、リオウに全てを託して、深い眠りについた。


あれから、どれ程の月日が流れただろう。


魔力が毒となる神子への治療は難航した。今の医療でも完治は難しい、危うい命を守る為、龍神は人型にもならずに、長い時間そばにいて、今もこうして神力を注ぎ続けている。


リオウは今日も訪れた足音が聞こえて、視線を上げた。

毎日欠かさず足を運ぶ、この国の王太子。

本来ならば、龍神の神聖な棲み家に踏み入れる事など許されないが、このままだとこの王太子も病んでしまうと思い、彼の想いを受け入れた。


「おはようございます、龍神様。レイ様のご容態はいかがですか?」

「おはよう、ランスロット。相変わらずマメにやって来るね」

「何かおかしいでしょうか?」


さも当たり前と疑問も持たないランスロットの返答に、リオウはピクリと眉を寄せた。

これはもう崇高な神と崇める目ではない。レイに向けるソレは、龍神に向ける目とは全くの別物。恋は盲目とはこのことか。親の目の前で、愛し子にそんな眼を向けるとは。


「外傷は癒えたから、そろそろ目覚めてもいい頃だけれども。そうだねぇ、恋人のキスでもあれば目覚めるのかな?」

「…え?!」

「え、なに赤くなっているの?君達はまだ恋人でもなんでもないでしょう?」


リオウのからかいに、ランスロットの顔は赤くなった後に青くなった。ニヤニヤと笑うリオウをジト目で見るが、文句を言い合える程二人の身分差は近くはない。ランスロットは言葉をグッと呑み込んだ。


リオウの言う通り、レイの外傷は日に日に良くなり、青痣も傷跡も見える範囲には目立たない。

だが、外傷以外にも魔力の枯渇、内臓の損傷、過剰出血による血圧の低下がレイの目覚めを遅らせている。


このまま目覚めないのではないか。ランスロットは僅かな不安を抱えていた。

世界はこの優しい方に『忌み子』という足枷を与え、身も心もズタズタに切り裂いた。

ランスロットに向かって走り寄り、背中から血飛沫をあげた悪夢のような光景は、今でもランスロットの脳裏に焼きついて離れない。

あの時。この国で生きたいと言ったレイの最期の眼には、何一つの未練も感じ取れなかったのだ。


レイを見やれば、美しい人形のように瞳を閉じている。その瞼はまるでこの世の全てを遮断しているように。


「そういえば、弟くんは今どうしてるの?」

「…はい?」


嫌悪感丸出しでランスロットは返事をした。

レイが発動した転移魔法は、ランスロットとアルフレッドを巻き込んで、天界に転移した。

あの時は、目の前に突如現れた三人の姿に、リオウは酷く驚いたが、状況が状況なだけに、リオウはアルフレッドの事を王族に全て丸投げした。

リオウの中で、我が子の順位がダントツ一位なのだから致し方ない。


「アレは斬首に値しますが、いかんせん、レイ様の実弟。レイ様が目覚めるまでは厳重に監禁しています。まぁ、アレもあの日から酷く消沈していて一言も発しませんが」

「そうか」


聞いた割には、あっさりとした返答を返す。

どうでもいいと言うには、レイとの関係が深く、助けたいと言うには、憎悪が邪魔をする。扱い難い人間の存在は、今国が抱える一番の問題だ。


(レイの事だから、どうするかは目に見えているけどね)


リオウは一つ翼を仰いだ。

今日もまだ、愛し子は深い眠りの中にいる。

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