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28.

レイは起き上がると、そこは真っ暗な闇の中だった。


「ここは…?」


異空間に取り残された子供のようで、不安に包まれる。立ち上がり歩こうとするが、何もない闇は一歩進むのも恐怖心が勝る。

蹲み込んで足元を手探りで確認する。

何もない。誰もいない。視界を奪う闇が怖い。

ここはどこだ、なんでこんな所に自分は居るのか。

レイは冷静になって考える。さっきまでは医務室にいた。それからどうした…?記憶の断片を探す。

すると、


「姉さん…」


「アル…?」


耳に響く弟の声。

暗闇の中にある、唯一の言霊にレイは身体を強張らせる。


「あぁ、姉さん。やっと話せた。俺のこと分かる?」

「アル…?どこだ?姿は見えないが…ここにいるのか?」


視界には何も見えない。脳内に直接響く声に、そうか。とレイは冷静に思った。


「これはアルの魔法か…?」

「…そうだよ。姉さんの意識の中に直接語りかけてる。この間、居場所は分かったからね。姉さんが眠っている間に俺の意識を飛ばしてるんだ」


なるほど。ということは、ここは夢の中か。

レイはやっと理解した。

暗闇の中をもがくことを諦め、アルの声に耳を傾ける。


「アルは凄いね。こんな魔法も使えるのか」

「…やけに、楽観的だね。俺は毎日姉さんを必死に探しているというのに。この魔法も、どうにか姉さんと話せないかと思って勉強したよ。だけれど、魔力の消費が激しい。あぁ、姉さんと会話するだけでこんなに大変だなんて…姉さんは元気なの?ちゃんと生きてるの?」

「私は大丈夫だ」


アルフレッドを安心させようと言った言葉は、アルフレッドにとって不服だったようだ。


「大丈夫?そんな訳ないじゃない。姉さんは攫われて、俺の側を離れてしまった。なんで大丈夫だなんて言うの?俺は全然大丈夫じゃない、姉さんが居なくなって、俺はずっと冷静じゃないよ。なんで逃げたの?なんで俺の側から逃げたの?」


覚悟はしていたが、直接弟から責められると、レイも怯んだ。

側を『逃げた』。確かにアルフレッドから見たらそうなのだろう。

だが、何も知らなかったあの頃とは違う。


「アル…私は家族の事情も、私が黒髪黒目で生まれた理由も知った」


閉じ込められることが当たり前だと信じて生きていたあの頃とは違う。

レイは、外の世界を知ってしまったのだ。


「アルから逃げたんじゃない。私はここが帰る場所だと知った。私はここで生きていくと決めたんだ。だから地上には戻らない。アルも私を探すのはやめてくれ」


自分が理由で、戦が起きるのは嫌だ。

弟が傷付くのは嫌だ。

アルフレッドが地上で、何をしているか聞いてしまったから、レイは止めなければいけないと思った。

身内が攫われたと勘違いしているなら、自分は元気で自分の意思でここにいると伝えたかった。

それでいいと、レイは思っていたのだ。


「…だからなに?」


冷たい声にヒュと喉が鳴る。

姿も顔も見えないのに、アルフレッドが怒っていると理解した。

また、間違えた。

レイは、後悔したが遅かった。


「姉さんが、俺の姉さんであることは変わりない。俺だって、姉さんと昼夜問わず一緒に生活したかった。一緒に遊びたかったし、学校にも行きたかった。家の仕事も姉さんが一緒ならどんなに良かったか…!姉さんの姿を変えたくて魔法を勉強したけど、姉さんには魔法が効かなかった。だから守る為の魔法を必死に勉強したよ?俺はずっと我慢していた。姉さんと一緒に生きたかったのに、そうさせてくれなかったのは、この国の法律と、姉さんをそんな姿に生み落とした愚神だ!」


衝撃だった。アルフレッドはずっと溜め込んでいたのだ。

我慢していた真実を、怒涛のように吐き出す。今まで聞いてあげられなかった悲痛な声に、レイは目頭が熱くなった。


「知ってしまったなら、分かるよね?俺はずっと姉さんを守っていた。姉さんが見つからないように匿って、姉さんの知らない間に俺も戦乱の前線に立ったよ。大怪我をしても魔法で治癒して、何食わぬ顔で何度姉さんに会いに行ったと思う?17年間、ずっと一緒だったのに。ずっと姉さんを守ってきたのに…それでも竜族とかいう、姉さんとは似ても似つかない種族が、姉さんの国?帰る場所?馬鹿げてるよね?姉さんは俺の双子の姉で、姉さんは俺の家族だ。血の繋がった家族を置いて、姉さんは、異世界が良いとでも言うの?」


「アル…この国は」


「はは、そっちの世界に洗脳でもされた?酷いね…酷い…姉さんは俺を捨てるの?嫌いになった?そうか、そうしろって言われたのか。俺を憎むように言われた訳だ。なんて酷い国だ、許せない…絶対に許さない」


「違う、違うよアル…」


「俺は憎いよ。姉さんを奪った、その国が憎くて仕方ない。天界にあるんだってね、場所は分かったし、手立ても出来た。待っててね姉さん。俺は姉さんを絶対に助けに行く」



ーーー!



そこで、声は途切れた。

視界は開かれ、目に入ったのは真っ白な天井だった。

目元が濡れていて、それが涙と理解した。

視線が定まらずに泳ぐ中、近くにいた気配が、レイを呼んだ。


「レイ様!!」

「……ランス」


見知った顔に、全身の力が抜けた。

手を伸ばすと、その手をギュッと両手で掴まれる。

優しい顔がそこにあって、あぁ、やっぱり好きだなぁと、レイは思った。

安心して、涙がまた一筋流れた。


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