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27.

 医務室を出て、苛立ったままのタイザーは、勢いのまま執務室に向かった。

扉を開けた先には、いつものいけ好かない宰相と、驚いた顔でこちらを向くランスロットがいた。山積みの書類をかき分け脇目も振らずにオスカーの目の前に進んだ。


「なんですか、貴方は。騒々しい」


突然現れた来客に、訝しげに眉を潜める。自分の職場に現れ書類を落とされてオスカーの額には青筋が浮く。


「拾って下さい。余計な仕事を増やすな下衆が」


二人は年も同じく、学生時代からの同期であるが、昔から馬が合わない。道は違えど同じ王宮に勤めているので顔を合わせる機会も多いが、仲の悪さは有名だった。一触即発のピリピリとした空気に、ランスロットも冷や冷やと状況を見守る。


「てめぇのせいで、レイのやつがどうなってるのか知ってるのか?」

「神子様を呼び捨てになど」

「てめぇと違って、こっちはかなり親密になってるからな」


ふふん、と鼻を鳴らす。これにはランスロットも自慢話をしに来たのかと眉間に皺が寄った。最近見慣れた二人の師弟関係に羨ましがるのはランスロットばかりではない。


「なんなんですか、藪から棒に」

「最近のレイの様子を知ってるのかと聞いてる」

「それなりに…努力はしていると聞いてますが…」

「それだけか…?」


的を得ないが、オスカーには心当たりはある。初めてレイと会った時の態度は、冷静になった今では後悔が優っている。それに誰が報告したのか、あの後、龍神様と国王様の二人にみっちりと深夜まで説教された。まるで子供のように怒られてプライドも折れた。流石にこの年で大人に叱られるのは堪える。


「貴方に咎められなくても、あの日の失態は、龍神様にも国王様にもお叱りを受けました。反省はしております」


だが、結果オーライだともオスカーは思う。

礼儀作法も御座形だった黒龍の神子は、あの出来事を機に講師を付けて勉強に励んでいるという。

黒龍の神子ならば当たり前の事。むしろ遅すぎたくらいだ。

これから人前に出る機会も増えるだろう、神子様には多少の品格は備えて欲しい。

最近のレイの噂を小耳に挟みながら、オスカーはどこか、自分の行いは正解だったと正当化していた。

だから反省はしたが後悔はしていない。

あのひ弱な神子様は、この国で守られて大切にされているのだ。自分のようにダメな部分を指摘する立場の存在も必要なのだ。


だから自分は間違っていないと、この時までは思っていたのだ。


「違うだろ。てめぇは根底で、地上の人間を嫌ってやがる」

「はい?」


想定外の咎めに、オスカーは驚きながらも咄嗟に反感する。違うと思った、その感情の違和感を鷲掴みされた気がした。


「私が?何を根拠に…」

「地上の血が…そんなに気にいらねぇか?俺に対してもそうだ。お前は昔から俺の…この地上の血が混じった容姿を毛嫌いしていやがるな?隠してるつもりか?竜族より体格も力も劣る地上の人間が、そんなに気にいらねぇか?たとえ神子様でも地上生まれは受け入れないのか?それでもお前は宰相か?」


ランスロットは意味を理解して、オスカーに視線を向ける。これが本当なら由々しき問題だ。この国において人種差別はあってはならない、暗黙の規律。それは多種多様の国民が住むようになったからこそ、守らなければならない人権だ。子供でも嫌というほど諭される教養を、国の宰相が偏見を持っているなど、あってはならない。

もし、それが事実であるならば、レイに会わせるなど以ての外。近づく事さえ咎められる。


確かに二人は仲が悪い。その根底にあるものが、タイザーの混血種への差別だとしたら、話が変わってくる。


「…違いますよ……私がそんな」

「シラを切るならそれでもいい。ここには殿下もいるからな。立場的によろしくねぇよな?」

「訳が分かりません」

「別に俺に対してどう思っててもいい。だがな、レイに当たるのはお門違いだ。レイとてめぇの両親の事は関係ねぇだろうが」


オスカーはカッとなる。


「うるさい!!!貴方に何が分かる!!」

「あぁ、分かりたくねぇし、関わりたくもねぇよ。だがな、人の事を評価する前に、お前だって先代の宰相様に比べたら雲泥の差だってこと、その堅物頭にしっかり叩き込んでおくことだな!!!」


部屋を揺るがす怒涛の中、

それを打ち消すように勢いよく執務室の扉が開いた。


「タイザーさん!!た、大変です!!!早く来てください!」


血相を変えて入ってきたのはロキだった。

慌てた様子で、タイザーを呼ぶ。


「レイ様が倒れました!!!!」


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