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「ラナ、そろそろ国境だよ」
「……ん」
いつの間にか眠っていたらしい。
グロリアに起こされて、伸びをする。
「どこ?」
「国境。カツラから地毛見えてるから直しておきなよ」
地毛が見えてるという言葉に慌てて、鏡を取り出して直す。
オレンジ色のカツラの下から、本当にちょっぴり髪の毛が出ているのが見えていた。
「とりあえず、向こうの国境を通りすぎるまではうちの馬車だけど、それから先は向こうで馬車を捕まえて移動だからね」
「うん。王都まで行ってラフォン様について調べるんでしょ」
「そう。あのついてきていた二人に話を聞けたらいいんだけどね」
「会えるといいな」
グロリアに返事をして窓の外を見る。
窓の外は雲が多く、薄暗い。もしかしたら、雨が降りだすかもしれない。
今のあたしの不安を映し出しているみたいで、余計に不安になる。
窓から視線を離して最終チェックをする。
今回は国境だけじゃなくて、王都にまで行くから変装して行った方が無難だろうってグロリアに言われたから。
グロリアもいつもの黒髪ではなく、瞳と同じ茶色の髪のカツラを被っている。
褐色の肌はお風呂に入ってしまえば、化粧で誤魔化したとしても、すぐに分かってしまうからとそのままにしている。
一応国境ではあたしたちはグロリアお忍び旅行に着いて来た使用人ってことになっている。
グロリアはこっちにいるけど、もう一台空っぽの馬車が先導している。
あの中に偽物のグロリアを乗せるとかしないのかな? と思って聞いてみたら、別に貴族の馬車の中までは確認しないから平気だとのたまった。
「それに、あたしたちが、国境付近であいつらの手下を捕まえても、あっちが飛んで来ることはなかった。それだったら、国境ぐらいは平気でしょ」
「なるほど」
じゃあ、最初からカツラを被る必要なんてなかったんじゃ? と言いたくなるけど、いつボロが出るか分からないし、これから先、カツラを脱げないからちょっとした油断も出来ないのだから今の内に慣れておくことも大事よね。
「カツラの中身って見られたりしないのかな?」
「さあ? 今までそういう話は聞いたことがないから分からないな」
ポツリと呟いた言葉はグロリアに聞こえていたらしく、答えてくれたが、グロリアにも分からないらしい。
下手したらカツラ被っていたって無駄って可能性もあるんだよね。大丈夫かな?
「でも、そんなものまで見ていたら普通に隠せないからもっとハゲの人いるんじゃない? カツラはあったんだよね」
言われてハタリと気付く。
そういえば、自分とは関係ないと思っていたから深く考えたことはなかったけど、どうだったっけ?
いたようないなかったような?
というか、そもそもカツラってどこで売っているんだっけ? 全然関係ないと思っていたから本当に分からない。
誰かそういった話とかしていたことあったかな?
「まあ、いいや。それより、国境は過ぎたから降りよう」
思い出そうと、うんうん悩んでいたらグロリアに声を掛けられた。
あたしが悩んでいる間にいつの間にか国境は通りすぎていたらしい。全然気付かなかった。
馬車を降りれば、シェスタ・マーベレスト側の見慣れた国境の街。
ちょっと前まで何度も通りすぎていたから、そんなに目新しさはなかったが、それでも、ラフォン様の安否が分からない今、違う意味でドキドキしている。
本当に馬車の中まで確認がなかったんだなぁとぼんやりと考えていたら、グロリアがスタスタと歩いて行く。
あたしが着いて来てるかも確認しないから、置いてかれたらはぐれちゃう。
国境の街はそれなりの広さがあるし、みんな国境を通るからそれなり以上の人がいる。
そんなところで、はぐれたらあたしが困る。お金はグロリアが持っているのだから。
あたしだっていくらかは持っているけど、宿代とかはグロリアが持っているお金から支払いをするって言われているから、宿代を余計に払わなくちゃいけなくなるかもだなんてしたくない。
置いてかれないようにしながらグロリアの背中を見つめて歩いていたら、グロリアは休憩もそこそこに馬を借りていた。
「乗馬できるよね?」
「あ、うん」
祝福の力を無効化する剣を探していた時、移動は馬車か徒歩だったため、詐欺にあったりと散々な目に遭ったから、馬一頭だけ連れて行った方がマシかもしれないと考えて、乗れるようにって練習したから。
そのことを告げれば、グロリアはそれなら大丈夫そうだねと二頭の馬を借りていた。
あたしも片方の馬に乗る。
「休憩は少なくするけど、別にいいよね。ラナだってあの人のこと気になってるでしょ?」
「あ、うん。それは、うん」
でも、そんなに慣れてないからお手柔らかにお願いしたかったけど、グロリアは本当にほぼ休憩なしで王都にまで駆けた。
あたしは王都に着く頃には疲れ切ってて、どこかで休憩させてもらえないだろうかと、期待したけど、グロリアはさっさと歩いて行くので、もうしばらくは休ませてもらえなさそう。