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ラナと再会し、一通り話が終わった後、ジゼルがまだ話すことがあるだろうからと席を外してしまった。
そこまで気にする必要はないのにと言ったのだが、ジゼルは行ってしまった。
彼にも世話になっているのに、気を使わせてしまったことに少々申し訳なくなる。
グロリアだけでなく、彼にも感謝しなければならないだろう。
というか、こちらに来てからは沢山の人に私の考え方まで変えられてしまった気分だ。
気分でなく、実際にそうなのだろう。
ここまで考え方が変わるとは思っていなかったため、頭をガツンと殴られたような衝撃だった。この衝撃はしばらく忘れられそうにないな。
彼らに何かしてあげらればいいのだが、元々私は少し滞在して帰るつもりだったので、何も用意してなかった上に、これからのことを考えるのならば、私から何かを貰ったとしても迷惑になってしまうかもしれない。
それに、こちらのことに疎すぎる。何が流行りとかも分からない上に、私か何かしたとしても彼らの迷惑になるかもしれない。
だが、それでも何かしたいと考えるのは、おかしなことなのか? とりあえず、従兄弟殿のせいなので、ユリアの治療費は出すとして、他にもすることがあるはずだ。
後でゼランとミーヌに相談するしかないな。あいつらは調査で少なからずこの国のことは調べているのだから。私よりはこの国に詳しいだろう。
とりあえず、彼らに何かあげるのは一旦保留にしておいて、私たちが泊まって行くと知ってラナは喜んでいた。
ここまで喜んでもらえるのならば、もうしばらくはここに滞在させてもらおうか。
私たちにと与えられた客室は過ごしやすいようにと整えられてあった。離宮の使用人とは違って、ここの使用人たちは私たち相手でも親切にしてくれるのは、ラナたちのお陰か。
ここの使用人たちには、私たちはラナの恩人だと伝わっているのだろう。
私たちの素性は知っているはずなのに、とても親切にしてくれるのはラナの人柄のお陰なのか、それとも別の思惑があるからなのか。
過ごしやすく過ごせることにこしたことはないが、つい疑ってしまうのは悪い癖かもしれないな。
いや、そういう生き方しかしてきたことがなかったのだから仕方ない。もし、ラナみたいに平民だったら。もし、あの国とは別の国に生まれていたのならば、別の生き方、考え方も出来たかもしれぬが、そうではなかったから仕方ない。
とりあえず、ここの使用人たちの考え片が前者であれば、二人はいい人たちに囲まれて幸せに暮らしているのだろうと考えるべきなのだろうが、ラナは従兄弟殿に復讐するとはっきりと語った。
そのことで私に迷惑を掛けることになるかもと悲しそうにしていたが、別に私は従兄弟殿のことが好きではない。
なので、その辺は全然構わない。寧ろ、従兄弟殿が手に入れるはずだったものを手に入れられるかもしれないのだからラナには感謝するべきだろう。
国政には興味がなかったが、この際色々と改革して膿を出すのもいいのかもしれない。一番の膿は王家だが。
それを言うのならば私も膿の一部なのかもしれないな。
このことが終われば、私もどこかに幽閉されることもならないが、それでも私は真実を知った以上は自分に出来ることをしようと決めた。
「でも、ラフォン様は……」
「それは、この国の者たちと他の国の者たちと決めることだ。だからラナが気にする必要はないよ」
ラナだとてどうするか決められたのに、私が何も決められずにおめおめと国に戻るのは情けなくすら感じてしまいそうになる。
だから、これからは私にさせてくれと言えば、ラナは大人しく引き下がってくれたのでホッとする。
幸いにもグレースの王とは最後に面談を求めてある。ここで決めなければ、ずるずると陛下の悪事に知らぬ間に加担させられる可能性だとてある。
ラナを見ていると、私も今までのように呑気に生きていける訳がないと気付かされる。これからは覚悟を決めなければなるまい。
こちらの国にいる間に、あらかたのことは決めてしまおう。
ジゼルの屋敷をすぐに辞したい気持ちはあったものの、久しぶりにラナと会ったのだからもう少しぐらいはいいのではという気持ちもあり、うっかり少しだけ長居してしまった。
だが、そろそろ国にも戻らなければ、不審に思われる。
帰る前にこちらの者たちと決められることだけ決めてしまえばいい。幸いミーヌに謁見の申し込みをしてきてもらっている。
離宮に戻る頃にはすぐに謁見出来るだろう。
そうなったら、後は話し合いを済ませてあの国戻るだけだ。
本音を言うのならば、もう少しこちらにいたいところだが、それが無理なことは理解している。
窓の外を見れば、綺麗な青空が広がっている。
こちらに来てからずいぶんと濃い時間を過ごした。あの国で過ごした時間の三倍は濃い時間だったような気がする。
普段の私からは想像がつかないぐらいの働きっぷりだ。
離宮の使用人に荷造りを頼んだが、私たちがこの国を去るのはもう少し先だが、この青空のような平穏がいつまでも続けばいいと願う限りだ。




