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「ラフォン様、ラフォン様! ……いきなりラフォン様のところからいなくなってごめんなさい! あの時はああするのが一番だと思ってラフォン様たちに何も言わずに出て来ちゃってごめんなさい。この国に来てから難度か手紙書こうとしたけど、あたしから手紙出してもラフォン様たちに迷惑を掛けちゃうって思ったら出せなくて……ごめんなさい」
「…大丈夫。大丈夫だから。落ち着きなさい」
「でも、でも……」
泣き出してしまったラナを宥めて泣き止ませようとするが、ラナはわんわん泣き出してしまってしばらくは泣き止みそうにもない。
これは宥めるのが大変そうだ。
ジゼルを見れば私と同じように困惑したような表情を浮かべて、ラナを宥めるべきかどうするべきか悩んでジゼルは私に任せることにしたようで、一歩下がってしまった。
今まで女性を泣かせるようなことはしたことがないため、どうやって宥めればいいのか分からない。
助けを求めてゼランとミーヌの顔を見比べてみていたらミーヌが動いた。
ラナはいつの間にかうずくまりそうになっている。それを何とか支えながら背中を撫でていたが、それをミーヌが私の変わりにラナの背中を撫で始めた。
「我々はあなたの心配はしていましたけれど、迷惑を掛けられたとは一度も思ったことはありませんよ」
「……でも……」
「大丈夫です。さ、涙を拭いてラナの顔をよく見せてくださいな……ほら、顔を上げて」
ハンカチを取り出してラナの涙を拭く姿は手慣れていていままで散々女を泣かせて来たのでは? と疑惑が頭をもたげるが、今はラナが泣き止んでくれるのならばどうでもいい。
ミーヌのお陰でラナがでもでも言いながらも段々と落ち着いて来たみたいでホッとする。
ラナが泣き止んだのを見てホッとする。
「とりあえず、今部屋を用意させるから今までの話をするといいよ」
「あ、うん」
ジゼルの言葉にちょっと恥ずかしそうにしながらも返事を出来るようになっていたので、もう大丈夫そうだな。
ジゼルの案内で応接室に行くのかと思ったのに、ラナの部屋に案内したいと言われてしまった。
「いいのか?」
「ラフォン様たちにあたしのこと話したいし、こっちの様子を話すなら部屋も見て欲しいし、ユリアのことも紹介したいんです」
嬉しそうに笑うラナの顔はさっきまでの泣いていた顔とは違い、嬉しそうで、ユリアには興味がないと言い損ねてしまい、そのまま会うことになってしまった。
ラナの部屋はあまり物が置いてなかったけれど、それでも居心地よく整えられていて、ここの使用人たちからも大切にされているのが窺える。
そして、ユリアに会った。
ラナの話では、ユリアとはそっくりだと聞いていたのに、その体はあちこちに包帯を巻かれており、杖をついて歩く姿は痛々しいものだった。
ジゼルからユリアの怪我は従兄弟殿によってつけられて出来たものだと聞いていたが、ここまでする必要はあったのかとか人はここまで落ちてしまえるのかと、色々と考え恐怖した。
元々従兄弟殿のことは好きではなかったが、一層彼のことが嫌いになった。
「痛むのか?」
「薬飲んでるので、あまり痛みません。それに、これでもだいぶ良くなって来たんですよ」
「……そうなのか。従兄弟殿の変わりに私が謝罪しよう」
「そんな! 大丈夫です。お姉ちゃんが助けてくれたから……でも、アルフレッドのことは許せないんです」
「それは当たり前だ。私も協力するよ」
「あ、ありがとうございます」
「ラフォン様」
「よろしいので?」
「ああ」
従兄弟殿のことは名前も呼びたくないぐらいだったが、これからは死んでもいいんじゃないかって思えるぐらい嫌いになりそうだ。
ゼランとミーヌの不安も分かる。
だが、このままでは何の関係のない民まで巻き込んでしまう。それは、国としてするべきではない。
せっかく王族に生まれたのだから、この権力を使わないまま過ごす必要はないだろう。
二人には迷惑を掛けるだろうが、ここまで着いて来てくれた二人なんだから、なんだかんだいいつつ、多分これからも着いて来てくれるだろうと信じている。
「私がこれからすることで、お前たちの身の安全を保証することは出来ない。だが、お前たちがいてくれたら百人力だ。協力してくれるか?」
「もちろんです」
「私もゼランもどこまでもお供いたしますよ」
「ありがたい」
「あ、あの、あたしも協力出来ることがあるんでしたらします!」
「あたしも……あたしは動けないですけど、祝福の力があります。あたしの力もよければ使ってください」
「いいのかい?」
ゼランたちに確認するのはラナたちの前でするべきではなかったと気付いたのは、二人が話しに割って入って来た時だった。
二人の申し出はありがたいが、二人をこれ以上危険にさらしていいものなのかと思って聞いたのに、二人は即答して頷いた。
ジゼルに後で確認すれば、ラナは復讐することを目標にしてここまで来たのに、今さら誰が止めたところで止まる訳がないと言われてしまえば、苦笑するしかない。
そういうことならば、二人の力もありがたく借りようではないか。