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「我々は遠くから顔を見るだけにしたいのだが……」

「はいはい、それはまた今度ね」


 ラナがいるのはこの国の貴族の屋敷。


 14、5歳の少女がどうやってこの国の貴族と縁を持ったのかは分からないが、彼女が何不自由なく暮らせていてよかったと思うべきか。


 ゼランに調べさせた彼女の境遇は悪いものでしかなく、このような暮らしをさせている周囲の者たちに憤りを感じたし、もちろんそんなことを知らずにのんきに暮らしていた自分にも、あっさりとうまい話に釣られて今まで一緒にいた自分の半身をあっさりと捨てた妹にも感じていた。


 ラナ一人だけで、あそこから逃げていたらもう少しマシな境遇だったかもしれないのに、彼女はそれをせずに妹と暮らしたいと願っていた。


 私たちがそれを叶えてあげられたらよかったのだろうが、それは出来なかったため、この国の者が叶えてくれているらしいと知っただけでもよしとすればいい。


 グロリアの説明を受けながらグレースの街並みを眺めているとあっという間にラナがいる屋敷にたどり着いた。


 聞いていた貴族の家格を考えると、それなりには稼ぎがあるようで、ラナの暮らしは良さそうだと安心する。


 だが、ラナの妹も一緒にいるという。彼女は従兄弟殿の被害者ではあるが、我が国でもグレースや他国でも今は祝福持ちたちは貴重。


 もし、ラナと妹の扱いに差があったとしても、あの子のことだから何も言わずに過ごしている可能性だってある。


 彼女が何不自由なく暮らしていることが確認出来なければ、私がラナのことを連れ帰ろう。


 従兄弟殿たちのことはミーヌがいれば事足りるし、私の祝福だとて目眩ましとしての役割ぐらいは果たせるだろう。


「ふふ」

「何か?」

「いえ、意外と分かりやすい方だなと思って」

「そうですか」


 顔に出していたつもりはなかったが、指摘されるということはそうなのだろう。今さら取り繕ったところで遅い。


 後でミーヌに何か言われるかもしれないが、その時はその時だろう。


 屋敷の正面で馬車が止まったので、降りてグロリアに手を貸そうとしたのに、グロリアはさっさと降りて私に向かって手を差し出してきた。


「……それは私の役目では?」

「失礼。さっきまでうじうじしていらっしゃったので、てっきり女性だったのかなと思いまして」

「違います」


 どうしてそういう間違いをするのか。ワザとだとしても失礼すぎやしないか?


 睨みつけたくなったが、それはせずに私も馬車から出れば屋敷の主人と思わしき青年が出てきた。


 事前にグロリアから聞いてなければ、この屋敷の子息か何かだと思っただろう。


 第一印象は良家の子息で、敵国の王族の私にも丁寧に接してくれている。ここまではかなり印象がよさげだけだ。ミーヌの報告でも領民からの支持が厚いことは聞いている。


 だが、この者が二人の扱いに差があるのかしっかりと見なければ。


 ジャスティンと名乗ったここの当主は普段はジゼルと名乗っており、二人にもそう呼ばせているんだとか。私たちにもジゼルと呼んで欲しいと言われた。


 グロリアは着替えてくると言ってジゼルの屋敷の奥に勝手に入ってしまった。 


 ジゼルに聞けばいつものことだと苦笑していた。いつもあんな感じなのか。


 ところ変われば文化や風習は違うと言うが、自分の生まれた国とは違うところを見れば改めて驚かされる。


「今二人は別々に過ごしてまして、ラナは外にいます。先にユリアに会いますか? あの子は中でリハビリ中ですが」

「いや、いい」

「では、ラナのところに行きましょうか」

 

 私はユリアのことに会ったこともなければ、ラナから聞いていた話でも好感が持てるような人物ではなかったので、特に会いたいとは思わなかったが、ミーヌかゼランが会うかと思って聞いてみたが、二人も興味はなさそうだった。


「今から行くのはうちの屋敷の騎士たちの鍛練場なんですが、今はラナが使うので騎士たちは別の場所に行っています。グロリアはラナの剣の先生なんですよ」

「剣の? 危なくはないんですか?」


 ジゼルの返事に眉をひそめれば、ジゼルも深く頷いた。


「僕も反対したんですけど、そこのゼランさんに憧れているとかなんとか言って……それに、復讐するためにはどうしても強くなりたいと言って」

「お……私がですか?」


 動揺しているゼランにお前のせいかと睨み付けたくなるが、ジゼルでも止められず、グロリアがノリノリで剣を教えているんだとか。


 しかも、私の知らない間にこの国の王族にまで謁見し、気に入られているんだとか。あの子は一体何になりないのだろうか。


 そして、復讐というのは、従兄弟殿やひいては国もということなのだろうか?


 あの子の望みと国がしてきたことを考えたならば仕方のないことなのだろうが、それは私も含まれてるのならば少なからず会うのが怖い。


 ラナが私たちのことを気にしてくれているらしいのは、グロリアから聞いて知ってはいるが、会うとなるとまた別かもしれない。


 遠くから眺めるだけでとお願いすれば、ジゼルはグロリアほど頑固ではないみたいなので、快く頷いてくれた。


「正直、あの国の王族だから期待はしていませんでしたが、ラナがあなたたちのことは褒めるのでどのような方たちなのかと気になっていましたが、今日お会いしたことであの子はいい人たちに出会えたんだと知ることが出来ました」

「……私は彼女が思うような人間ではないですよ」

「でも、彼女にはそう見えたのなら、彼女にとってはいい人だったんですよ」

「そうだといいですね」


 ジゼルと話している間にグロリアが動きやすいパンツスタイルに変わっていた。


 それは別にいいのだが、ラナも同じような格好をしているのかと思うと何とも言えない気持ちになる。これが年を取ったっていうことなのだろうか。


 だとしたらそれは嫌だな。


 グロリアは先にラナのところに行くと言う。グロリアと行けば多分ラナに気づかれてしまう。それなら、後からこっそり行って姿を見て帰ればいい。


 ジゼルの案内してくれた場所は訓練場というだけあってそれなりの広さがあった。


 ラナはどこにいるのかと思えば、すぐに見つかった。


 ラナは頭の高い位置でポニーテールにしていて、最後に見た時より背も伸びて顔つきも以前の幼い感じから大人っぽくなって来たように感じる。


 ラナはグロリアの指導の元素振りをしていた。


 剣の腕はまだまだと言った感じだが、剣を振っている本人の顔はキラキラと輝いているので、本人的には手応えを感じているのだろうと見ていたらラナが突然こっちに視線を向けてきて驚いていたらラナは持っていた木剣を落とした。


 剣を落としたことよりも気づかれてしまったことに動揺する。


 グロリアが言わなかったから遠くからならバレないだろうと踏んでいたのに、どうしてバレてしまったのか。


 もしかしてジゼルがバラしてしまったのか? と視線を向けるが、ジゼルも驚いた顔をしていたので違うのだろう。


「ラフォン様!」


 ラナが私の名前を呼びながら駆け寄って来た。


 今度はゼランもミーヌも怒るようなことをしなかったので、私はラナのことを受け止めた。

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