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 町の様子が段々と祭りの雰囲気に変わって行く様子はわくわくする。


 だけど、遊びに来た訳でもないからと、その雰囲気を味わうでもなく、今日もあたしたちは宿に出入りする人たちを眺めている。


 でも、疑って見ていたらどの人だって怪しく見えてくるんだけど。


 メーシャさんはどうやって見分けてるのかと思って聞いてみれば、短く「勘」と答えた。


 それじゃ参考にならないんですけど、とジトッした目を向けるとメーシャさんはちょっと困ったように視線を反らされてしまった。


「……といってもあたしも何度もこういう仕事をしてたら段々分かって来たってだけなんだよね。あんたも経験を積めばなんとかなるとは思うけど、まあ、すぐに結果が欲しくなるのはあたしにも覚えがあるから分かるよ」


 つまり経験のないあたしは一人一人しっかりチェックするしかないと。


 考えただけでどっと疲れてきてしまった。


 そんなに時間を掛けても分かんなかったらどうすんの?


 それに、全員が怪しく見えるのに、メーシャさんみたいに出来る訳ないじゃん。


 何かコツを掴んだきっかけとかはないのかとメーシャさんに聞いても、よく分からないみたいな反応をされてしまえば、それ以上は聞けなかったので仕方なく諦めるしかないよね。


 どうやったらコツが分かるようになるんだろ。


 メーシャさんの行動をずっと見ていたら分かるようになるかなと思って、四六時中見ていたら、さすがにそれはやめろと怒られてしまった。


 確かにメーシャさんの立場だったらずっと見られていたら気持ち悪かったかも。


「まあまあ、こっちはあたしが見ておくから、あんたは町でも見てきなよ」

「……そうします」


 あたしじゃ役に立たないもんね。メーシャさんに返事をして外に出る。


「ついでに、酒でも買って来てくれよー!」


 外に出てからメーシャさんの声が追って来てちょっと恥ずかしくなった。もしかしたら、ずっとメーシャさんのことを見ていた仕返しだったのかな?


 スパイされる側だし、あたしが思っているよりも失礼なことをしちゃったかもしれないし、帰ったら謝ろう。


 でも、大声でそれは恥ずかしいのでやめて欲しかった。そして、この町に着いてから知ったけど、メーシャさんは酒豪だった。


 夜になると情報を集めて来ると言っては酒場を梯子しているらしく、朝になると酒臭いまま隣で寝ていることの方が多いので、深い意味はなかった可能性はなく。


 別に酒を飲むなとは言わないが、部屋の中がしょっちゅうぐちゃぐちゃにされるので少しは控えて欲しい。


 宿の人に怒られたくはないので、あたしが片付けてるのよね。お客さんとして泊まっているのだからそこまでする必要はないんだろうけど、悪質な客と思われたくなくて、片付けちゃうのよね。


 こんなところで宿で働いた時のことなんて生かさなくてもよかったのに。


 町の中の人たちは祭りが近いからか何だか前より活気がある。


 あちこち覗いているとお使いか何かだと思われたのか、試食させてくれたり、おまけだよと多めにくれたりとして荷物が増えて行く。


 一回宿に戻ってもらった物とかを置いてこようかなとフラフラしながら歩いてると、あたしと同じ髪色の子が歩いてるのが見えた。


「ユリア?」


 いや、ユリアはこの国にはいない。ちゃんとジゼルのところに残っているはずだ。


 けど、目の前の少女の醸し出す雰囲気なんかは、あたしやユリアのようで違うと分かっていても混乱しそうになる。


 というか、小さい頃からずっと一緒だったんだから、あたしが間違えるはずはないんだけど、ユリアに似た少女は怪我をした様子もなく、すたすたと歩いてく。じゃあ、あたしに似た雰囲気の少女ってこと?


 あたしは指名手配されているけど、まだ捕まってないから雰囲気が似ているって人がいれば気になる。だって、あたしの変わりに捕まっちゃうかもしれないじゃん。


 自分の変わりに知らない人が不幸になれとも思う程非道にはなれない。


 指摘してあげるべき?


 あたしが? あたしから指摘されてもあの子は嬉しいかな?


 どうするべきか、なんとなく気にはなる。なるけど、声を掛けていいものか悩む。今のところバレてはないとはいえ、こういう時はどうするのが正解なんだろう。


 目の前の少女はフラフラしているのに、近くの人とぶつからないのは素直にすごいと思う。


 追いかけてみる? どうしようか。


 こういう時、メーシャさんならどうするのかな? 怪しいと思って追いかけるかも。あたしもそうしようかな。


 追いかけるには荷物が重い。でも、一旦宿に戻って荷物を置いていたら見失ってしまう。


 ちょっと迷ったけど、あたしは追いかけることにした。


 だって、このまま見失ったらどうしてあたしたちに似ているのかとか聞けなくなると思ったから。


 この時のあたしの頭の中には、この国に戻って来た時に替え玉の人たちがいて、あたしたちもその人たちと入れ替わったってことはすっぱりと抜け落ちていた。


 だって、普通の人は替え玉とか使わないし、仕方ないよね。


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