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 この町の祝福持ちの女性はナディアさんというらしい。


 メーシャさんはナディアさんにコンタクトを取ると、あっという間に話をする約束を取り付けていた。


 その鮮やかな手腕にどうやったんだろうと首を傾げるが、思い出してみても、鮮やか過ぎて殆ど覚えてない。


 メーシャさんが選んだ店は大通りに面したお店で、人の出入りが多い。ここなら、誰もあたしのことなんて気にしないだろうと選んでくれたらしい。ありがたい。


 ナディアさんは茶色の髪がふわふわしていて、なんとなく可愛らしい雰囲気の女性。


 可愛いし、祝福持ちだもん引く手あまたになるのも納得出来る。


 あたしが男だったら、多分、こういう人を選びたいかも。


「時間取ってもらってごめんね。あ、この子はあたしの妹なんだ」


 ナディアさんの視線を感じてメーシャさんがあたしを紹介したので、あたしもナディアに向かって軽く挨拶をした。


「はじめまして」

「はじめまして?」

「あんま似てないでしょ。あたしが父さん似でこの子が母さん似なんだ」

「そうなんだ。可愛らしい妹さんだね」

「ありがとうございます」

「あたしに似ればもっと可愛かったかもね」


 メーシャさんとあたしを見比べて不思議そうな顔をするから、メーシャさんがそう付け足すとナディアさんは納得してくれたらしい。


 あたしはてっきり指名手配犯だと気付かれてしまったかと、内心焦っていたけど、ナディアさんが気付いてなさそうでホッとする。


 メーシャさんの言う通り、イチイチ人の顔なんて気にならないのだろうと思うとなんとかなりそうだと思う。


 後は、姫様の祝福に気をつけておけばいいだけ。でも、この町に来てからはフードを取っていることがわりかしあるけど、今のところあたしを捕まえに来る人はいない。


 みんなの言う通り姫様に何かあったのか、それとも王都で何かあったのか。


 そろそろグレースの使節団が到着している頃だからそっちに気を取られいるのかな?


 でも、まあ、あたしが自由に動けるのなら何でもいいや。


 頭を切り替えて話しに耳を傾ければ、ナディアさんは祭りのために求婚者も増えて毎日たくさんの人たちに会うから誰が誰かもあんまり覚えてないみたいなことを言っていた。


 メーシャさんの話しに乗ったのは、女性が自分のところに来たのが珍しかったのと、誰でもいいから愚痴というか、のろけを聞いて欲しかったみたい。


 そうして、しばらく当たり障りのない話をしていたけれど、話は徐々に祭りのことに移って行った。


「あたしね、結婚したい人がいるんだけど、中々距離が縮まらなくて……そしたら友達が画策して祭りに併せて告白するようにって取り計らってくれたんだけど、そしたらなんか話が大きくなっちゃって、他の町からも人が来るし、その人たちの相手もしなくちゃいけなくなっちゃったしで予想以上に大変になっちゃったのよ……」

「そ、そっか……」

「それは大変ですね……」


 モテ自慢? と一瞬モヤっとしたが、ナディアさんは本当に困っているみたいで頭を抱えて唸り出してしまった。


 メーシャさんがそれを宥めているのを見ていたが、ふいに外が気になって外を眺めていたら通りの方からあたしたちを窺っている人が見えた。


 中肉中背の茶色の髪の男性でそわそわしたように足早にこっちを気にしながら何度もお店をちらちらと見ているみたいだった。


「あ」


 メーシャさんに声を掛けようと思って口を開いたものの、名前を呼びそうになって、何て呼ぶんだっけ? と設定を一瞬だけ忘れちゃって、中途半端に口を開いたものの、変な声しか出なかったけど、メーシャさんはあたしの視線を辿って外の男を見た。


「あの人……知り合い?」

「え? あ、あの人があたしが言ってた人なの! もしかしたら、誰かからあたしがここにいるって聞いたのかもしれないわ。ごめんなさい。あたし、もう行くわね」


 ナディアさんは慌てたように早口でそれだけ言うと、すごい早さでお店を出て行ってしまった。


 あっけに取られてしまったけど、仲良さげに二人が話す姿を見てナディアさんの心配は杞憂なんじゃ? と思わされる。


 あれなら下手な小細工なんてしなくとも、その内くっつくんじゃない?


「……あたしらも帰ろっか」

「そうですね」


 あんまり役に立ちそうな情報もなく、ただナディアさんののろけを聞かされていただけだったもんね。動き回っていたわけではないんだけど、どっと疲れた。


 あたしにはああいう話は苦手なんだなと気付かされたよ。


 多分、恋愛とかそういう話は向いてないんだろうね。


 今までも恋愛なんて関係なくて、生きて行くだけでも精一杯だったし、ユリアを連れて逃げてからは復讐だのなんだのって考えていたから。あたしの人生にはそんなのは必要ないと思ってたもん。


 多分これからも必要ないんだろうな。というか、恋愛している自分なんて想像がつかないや。


 お店を出るとメーシャさんは町をもう少しぶらぶらしてから宿に戻るって言っていたので、あたしは先に宿に戻ってゆっくりと休んだ。


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