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エタノーラにたどり着いてすぐに、あたしたちの替え玉に会った。
背格好は確かに似てなくもないが、顔は全く違っていた。こんなんで姫の祝福の力を誤魔化せるのだろうか? と疑問に思ったけど、誰も気にしてなさそうなので、あたしが何か言うのも変なのかな?
まあ、この国に入ってすぐからずっとマントを被っていたし、幌馬車の中でも気をつけていたから大丈夫なのかな?
あたし以外の五人はフード被ったり被らなかったりと自由だったけどね。あたしもフード取りたかった。
暑いし蒸れるんだもん。
でも、パッと見だけで誤魔化せる訳ないと思うけど、みんなが言わないのならあたしが言っても仕方ないよね。
姫様が気付かないことを祈るだけだ。
入れ替わった後はあたしたちは三組に別れて行動することになった。
「ラナはあたしと一緒ね」
「よろしくお願いします」
あたしと一緒に行動することになったのは、若草色の髪のメーシャさん。
「じゃあ、俺ら行くけど、気をつけてな」
「あんたたちもね」
「色々ありがとうございました」
「捕まんなよ」
「当たり前でしょうが」
「そろそろ行きましょ」
軽く挨拶を済ませて夜遅くにそれぞれ旅立った。
夜遅くなのは、姫が寝ているだろう時間を狙ったってこと。
そりゃ、姫も人間だから寝るだろうけど、もうちょっと早い時間がよかった。あたしも眠い。
「とりあえずあたしらは朝まで移動して、日中は休憩と移動。次の宿までは頑張りな」
「はい」
とりあえず返事はしたものの、うっかり文句を言ってしまわないように気をつける。
あたしのそんな姿にメーシャさんは苦笑していたが、休憩しようとは言ってくれないので、とぼとぼと歩き出した。
あたしたちの替え玉はしばらくまとまって行動してから国境に向かうらしい。
メーシャさんはあたしが何も知らないからか、あれこれと教えてくれた。馬車の中でも色々と教えてくれたのに、いい人だ。
「ラナはこの国出身よね? 本当に何も知らなかったの?」
「えっと、祝福持ちたちのお陰で、あたしたちの生活が豊かになっているから、彼らの機嫌を損ねるようなことはしちゃ駄目だとは小さな頃から言われてましたけど……」
だからあたしとユリアの待遇の差があったのは、当たり前だと思っていた。
それぐらいのことかな? あたしはユリア以外の祝福持ちは遠目にしか見たことなかったからあんまり詳しくない。
他の人に聞けば詳しく分かるかもしれないが、大人の言うことが絶対だから大人しく言うことを聞いていろという人たちばかりだった。
あたしの意見を聞いてくれたのは、ラフォン様たちとジゼルたちグレースの人たち。こっちの国の大人たちはろくでなしばっかだった。
大人たちは祝福持ちたちの機嫌を損ねるなとしか言わないし、ミーヌさんたちは多分あたしが知っているだろうと思っていたからか、礼儀作法以外だと歴史とか読み書き中心に勉強させられていたし。
ユリアだったらこういう時、何て答えていたんだろ。
「あ」
「何か思い出した?」
「ええと、そんなに重要かは分からないんですけど……」
「いいよ。今は殆ど手がかりらしい手がかりなんて何にもないんだから、何でも話して」
「それなら……何年かに一回ぐらいで祝福持ちたちに普段のお礼をという名目で各地でお祭りしてるらしいです」
地域によって開催日時がマチマチなので、何とも言えないが、祝福持ちたちが関係しているって点ならパッと思い付くのはこれぐらいかな?
他にも何かあったかな?
ユリアなら祝福持ちだからそういうことにも明るいかもだけど、あたしはそういう時には、裏方で言われるがまま働いてたりしていたからそんなに詳しい訳ではない。
「……同じ日に祭りを行わないのは、祝福持ちたちを探すための人材が少ないとか?」
「さあ? でも、祝福持ちたちがいたらすぐに噂になるからそれはないかと」
「……とりあえず、その祭りのことを調べようか。とりあえず、あたしたちは姉妹って設定で行くよ」
「分かりました」
メーシャさんに返事をしたものの、いつどこでするとか詳しい日なんて分かる訳ない。
移動する度に聞いて回ってたら変に思われないかなって思っていたけれど、あんまりそういう風にならなかったのは、メーシャさんの聞き方がいいお陰なんだろうか?
洗い場の近くで井戸端会議をしているおばさんたちに近付いて、最近引っ越してきたと近寄り、声を掛けていた。
最初は世間話をしているけど、その話題が一通り終わってからそれとなくここの習慣から始まって、祭りについて聞いたりして情報を集めていた。
手慣れてる。あたしが同じことしても途中でおばさんたちがどっか行ってしまうから祭りについての話を聞くだなんて夢のまた夢だ。
メーシャさんが話を聞きに行っている間にあたしも試しに同じように聞いてみたけれど、適当にあしらわれてしまった。
あたしもメーシャさんみたいに上手く話を聞き出したいんだけど、中々上手くいかなくてがっかりしたが、これから上手くなってけばいいんだもん。
この日は何度もアタックしてようやく話をしてくれる人に出会えたけど、その人もあたしと同程度の知識しかない人だった。